脆弱さの中でいま言えることを 日本宣教学会で来住英俊氏らが研究発表 2014年7月26日

 宣教に関する神学的、歴史的、社会的、実践的な学問的研究の促進を目的としている日本宣教学会(小田武彦会長)が7月5日、第9回全国研究会を清泉女子大学(東京都品川区)で開催した。会員を中心に約40人が参加した。

 米・海外宣教研究センター(OMSC)所長のネルソン・ジェニング氏による基調講演「最近の福音宣教に対する声明――比較と分析」に続き、4人の研究発表が行われた。

 村瀬義史氏(関西学院大学総合政策学部准教授)は「WCCにおける宣教・伝道論」と題して、2012年9月に成立した、世界教会協議会(WCC)の宣教・伝道に関する基本的立場を示す文書『いのちに向かって共に――変化する世界情勢における宣教と伝道』(TTL)の意義を考察した。

 TTLは、1982年に公表された『宣教と伝道――エキュメニカルな確言』に次ぐ第2の文書。同氏は内容的特徴として、「充ち満ちたいのちを与える、三位一体論的ミッシオ・デイ(神の宣教)」「宣教者としての聖霊(聖霊論的宣教論)」「全被造物のいのちを視野に入れたコスミックな宣教思考」「『周縁から』の宣教へのパラダイム・シフト」「『伝道』に関する議論が盛り込まれている」という五つの論点を提示。

 肯定的評価として、「宣教における『聖霊』と『いのち』の強調を通して、キリスト教内部の関係においてだけでなく、キリスト者以外の立場の人々、そして世界との関係においても、包括的なビジョンを示す宣教論である」と述べた。

  村瀬氏    ヴォルペ氏

 アンジェリーナ・ヴォルペ氏(南山大学総合政策学部総合政策学科教授)は「キリストと兄弟を愛するように教えてくれた友人」と題して、31年間交流のあったジョヴァンニ・リヴァ氏(1942~2012)について語った。リヴァ氏は、イタリアのミラノ聖心カトリック大学を卒業後、高校教師としてレッジョ・エミリアで若者の指導にあたり、学校やNGO、NPOなどの設立に携わった。その一つ、教皇庁認可のカトリック国際信徒団体「オペラ・ディ・ナザレト」は、ヴォルペ氏も会員の1人。同団体の規約には会員の受洗義務規定がなく、さまざまな人が集まって活動に参加していることを紹介した。

  来住英俊氏(カトリック御受難会司祭、祈りの学校主宰)は「ノン・クリスチャンの神義論的疑問に(いかにして)応答すべきか?」と題して発表。東日本大震災の後、複数の友人がノン・クリスチャンの知人から神義論の疑問を投げかけられていると話し、「彼女たちは嘲弄的質問と感じたらしい」と述べた。

 「日本人には、キリスト教についての真摯な関心もないのに、キリスト教について面倒な質問をしたがる傾向がある」としつつ、「しかし、そのような軽薄と見える質問の中にも、一縷の真摯な関心も含まれているのではないか」と主張。「軽薄な好奇心が多量に混じっているとしても、まず善意の質問として受け止めて、それに丁寧に答えるように努めるのが、日本においては宣教的である」と語った。

 ノン・クリスチャンが投げかける神義論的質問を前にしてキリスト者は、「自分の身(知的な尊厳)を守る術がないと感じる」とした上で、「脆弱さの中で質問を受け止め、いま言えることを穏やかに述べ、そして、さらに考え続けるのがよかろう……そのプロセスの中で、キリスト者の神理解はさらなる深みに向かって開かれる」と主張した。

 また、伝統的な神義論を「事後の神義論」とした上で、「渦中の神義論」があるのではないかと主張。津波がまさに自分の町を襲おうとしている時のキリスト者の祈りは、「神よ、この津波と戦い、押し戻してください」だとして、「世界にまだ働く混沌の力と戦う勇者としての神」という神観を提示。悪と混沌の力は、「残存する放射能」「稼働し続ける原発」「同胞の惨事を利権にしようとする人々」の中に働いているとし、「具体的な救援活動や政治活動の他に、その悪の力を神が抑え、押し戻してくださるように祈るべき」と提唱した。

   来住氏    高見澤氏

 高見澤栄子氏(韓国・トーチトリニティ神学大学院異文化学准教授)は「日本のクリスチャン女性運動」と題して、1930年に発足したキリスト教婦人団体「全国友の会」(現在188カ所、会員2万2千人)が日本で活動を拡大できた理由を検証した。

 時代の動向に合っていたことを第一に挙げ、情熱と賜物を持った羽仁もと子と、それを支えた管理能力に長けた夫・吉一の存在を指摘。「『家庭』という女性の生活の現場に焦点を合わせ、信仰的な意義に基づかせた実践的な教え」などを特徴として挙げた。

 

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