臨床牧会教育を他教派に開放 霊性についての研究・講座も 日本ルーテル神学校 「デール・パストラル・センター」開設 2014年8月16日

 日本ルーテル神学校(東京都三鷹市、石居基夫校長)はこのほど、教会を力づけ、牧師の牧会力を高め、信徒の霊性を養うことを目的とした附属研究所「デール・パストラル・センター」(DPC)を開設した。7月26日に「スピリチュアルペインとそのケア」をテーマに、創立記念シンポジウムを日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で開催した。

 DPCには、①パストラルの分野(牧会力を高める)、②スピリチュアルの分野(スピリチュアリティを養う)、③ソーシャルの分野(隣人のニーズに仕える)という三つの分野の働きがある。

 パストラルの分野では、今日の教会における牧会の課題についての研究とプログラムの展開を目指す。具体的には、同神学校のプログラムである臨床牧会教育(CPE)を他教派の牧師や神学生、宗教関係者に開放する(9月末~翌年1月、毎週木曜日、全10回)。病院実習を通して患者と出会い、他者との関わり方や自己理解を深めていくもの。また、牧会のスキルアップを目的とした臨床牧会セミナーを実施予定(2月に2泊3日)。2015年度より、牧会事例を検討する月例の牧会研究会の開催も予定している。

 スピリチュアルの分野では、教会と現代社会の中における霊性(スピリチュアリティ)についての研究と、各教会における霊的成長のためのプログラムを計画。具体的には、「五感のクリスチャン・スピリチュアリティ」と題する神学校公開講座を行う(9月末~翌年1月、後期15回・水曜3限)。また、15年度より信徒対象のスピリチュアルリトリートを開催予定。月例の研究会も予定している。

 ソーシャルの分野では、大切な人を亡くした子どもとその保護者のグリーフ・ケアの働きを行っている。「だいじな人をなくした子どもの集まり」と「保護者のための集まり」は年6回(14年度は9月20日、11月29日、1月24日、3月14日)、ルーテル学院大学で開催。時間は午後1時半~4時。対象は小学生から15歳(中学生)までの子どもとその保護者。参加費1千円。申し込みは「グリーフサポート研究会」(℡080・9682・7830)まで。グリーフサポート活動を推進するための研究会やサポート活動を担うファシリテーター(寄り添う援助者)の養成も行っていく。

 他にも、国内外からパストラル、スピリチュアル、看取り、死生学などの分野の講師を招き、「デール記念講演会」を毎年開催する予定。

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 DPCは、ルーテル学院大学の附属研究所だった「人間成長とカウンセリング研究所」(PGC、1982年~2012年)の働きの遺産を継承・発展させるために設立された。PGCの創設者ケネス・デール氏(同大学・神学校名誉教授)の精神を受け継ぐ意味を込めてDPCと名付けられた。

 DPCのメンバーは次の通り(順不同)。所長=石居基夫(日本ルーテル神学校長)、所員=ジム・サック(ルーテル学院大学教授)、齋藤衛(同神学校准教授)、堀肇(同大学非常勤講師、日本伝道福音教団鶴瀬恵みキリスト教会牧師)、賀来周一(キリスト教カウンセリングセンター理事長)、関野和寛(日本福音ルーテル東京教会牧師)、小嶋リベカ(国立がん研究センター中央病院プレイセラピスト)、浅野聖子(日本福音ルーテル市ヶ谷教会会員)
 DPCへの問い合わせは、日本ルーテル神学校(℡0422・31・4611)まで。

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 本紙の取材に応じた所長の石居氏=写真下=は、DPCのスピリチュアルの分野について、「キリスト教は言葉の宗教。どうしても説教に中心がある」とした上で、「言葉、知識だけでなく、もっと感覚的に霊的な養いが考えられてもよいのではないか」と語った。認知症や障がいなど、言葉でのコミュニケーションが必ずしも有効でない場合があるとして、「今まで注目されてこなかった、そうしたセンシビリティ、スピリチュアリティに注目して考えていきたい」と話す。

 「ニューエイジのムーブメントが欧米で起こってから、宗教には接しないけれども自分のスピリチュアリティを大事にしたいという人たちが、ヨガをしたり瞑想をすることがブームのようになっている」とし、「そうしたところにキリスト教がつながりを作っていくことは大事なこと」だと述べた。

     

 創立記念シンポジウムのテーマを「スピリチュアルペインとそのケア」とした理由については、「死と直面していく中で、わたしたちは心の深いところで魂の痛みを経験していく」とし、自分と同じ信仰を共有していなくても、家族や友人が死を前にして「生きることはどういうことか」といった痛みを深く経験している場合、その人にどのように向かい合い、どのようなケアができるのかという問題は、誰にとっても関心の深い問題だと指摘した。

「生きてきてよかった」と思える社会へ

 7月26日のDPC創立記念シンポジウムには220人が参加。大柴譲治氏(日本福音ルーテルむさしの教会牧師、ルーテル学院大学非常勤講師)の司会のもと、ウァルデマール・キッペス(NPO法人臨床パストラル教育研究センター理事長)、窪寺俊之(聖学院大学大学院教授)、賀来周一(キリスト教カウンセリングセンター理事長)の3氏が発題し、会場からの質問に答えた。

 キッペス氏は、「スピリチュアルペイン」の「ペイン」の語源が、罪の結果である「罰」を意味することから「スピリチュアルな痛み」と表現。「スピリット」とは「生きる根源」であり、「使命と能力に応じて責任を持って生きること」だと定義。人間には「自分はなぜ生きているのかを知りたい」「人生の意味や目的を持ちたい」「幸せは何であるかを知りたい」「自分を尊敬してほしい」といったスピリチュアルなニーズがあると解説した。

 窪寺氏は、「最期に『生きてきてよかった』と思えるような社会でなければならないし、そのようなケアができなければならない」とし、スピリチュアルケアがそれを担うのではないかと語った。スピリチュアリティとは「垂直の関係性」を表す言葉で、「神、仏、超越、第三者など、人間という存在を超えた存在との関わりを示すもの」だとし、いのちが危機に瀕した時に、それが顕著に覚醒すると解説。「向こうから見られ生かされている」という視点に切り替えることで、スピリチュアルな考え方ができると述べた。

 賀来氏は、スピリチュアルペインへの援助のあり方として、認知能力が残存する場合は、「寄り添いタイプのケア」(ケアのための傾聴と共感的理解と受容が必要とされる)、認知能力が希薄な場合は、「サクラメンタルタイプのケア」(複合感覚的な意味のある象徴の存在、行為、儀式によって「生き死に」の究極的意味また価値の充足感を獲得するためのケア)が求められると解説。スピリチュアルケアは「私の物語」の形成を目指すことであり、当事者が完成できない場合は周辺の関係者が継承することも多く、ケアをする人には「自己の相対化」が求められると強調した。

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