折り合いつける「しなやかさ」を 西平直氏が上智人間学会大会で基調講演 2014年9月20日

 「共生社会を問い直す」をテーマに上智人間学会(瀬本正之会長)の第42回学術大会が8月29日、上智大学(東京都千代田区)で開催された。西平直氏(京都大学大学院教授=写真)が「共生とアイデンティティ――折り合いをつけるということ」と題して基調講演を行った。

 西平氏は、「生きているということは、外界との折り合いをつけていくということ」であるとし、「共生」とは「ズレや葛藤を含めて成り立っている」のであり、「理想的共存」は持続しないと主張。「自分をヴァルネラブルにする(自分が損をする覚悟、痛む覚悟がある)」「双方向になる」「矜持を失わない(一方的な我慢ではない)」という3点が「折り合いをつける」ということだと説明した。

 また、E・H・エリクソンの言う「アイデンティティ」とは「自己同一性」ではなく、「かろうじて折り合いをつけていく姿」であると強調。アイデンティティができると排他的になるとして、「すべての宗教において、宗派が強いアイデンティティを持つ時は、必ず異端を作ろうとする」「アイデンティティこそが人と人の敵対関係を作ってしまう」と述べ、共生の中にもアイデンティティの中にも葛藤があり、何とか折り合いをつけようとしていくのが人間の姿だと語った。

 その上で、「自分自身との折り合いのつけ方」の重要性も指摘。「自我機能」を車のクラッチ機能にたとえ、「自分自身との関係においても、クラッチの機能をどれだけ持てるかがとても大切」と主張。「他の人と折り合いをつける時には、おそらく同じだけのエネルギーを自分自身との折り合いのつけ方にも使っているのではないか」と述べた。

 最後に、完全な満足はなく、「損」や「痛み」が必要になることを覚悟する一方で、自分の中の譲ることのできないものを大切にし、同じだけ、相手の中の譲ることのできないものも大切にすることを提唱。「折れることもできるし折れないこともできる」という「しなやかさ」を日々の暮らしの中で稽古していくしかないと述べた。

 上智人間学会は1973年発足。広く人間学の知識を求め、人間学研究の発展に資することを目的としている。現在の会員数は96人。

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