【空想神学読本】 「魔法少女まどか☆マギカ」にみる自己犠牲と贖罪 Ministry 2014年秋・第23号

「大事なことはすべて漫画から教わった」と豪語する世代がいるように、もはや教会にとっても無視できないほどの多大な影響力をはらんだニッポンのオタク文化。それらとキリスト教との「親和性」を追究してきた本誌が、満を持してお送りする新連載。コンセプトは、「サブカルチャーを神学する」。

 筆者の友人Kがある日、「魔法少女まどか☆マギカ」(以下、まどマギ)のテレビシリーズを観了し、キリストの十字架について感銘を受けたと話した。半年後彼は洗礼を受け、自身の信仰に導かれる直接のきっかけの一つとして、まどマギを位置づけることとなった。

 本作は、魔法少女たちと魔女との戦いの物語である。思春期の少女たちが、地球外知的生命体であるインキュベーター・通称キュウべえと契約し、自分の願いを叶える代償として魔法少女になり、魔女と戦う運命を背負うことになる。しかし、魔法少女たちが生命維持や魔法に使うエネルギーを使い果たしたとき、彼女たちは魔女となって人類に危害を与える存在となってしまう。つまり魔法少女という存在そのものが、いつか魔女となることを運命付けられた救い無き者たちなのである。

 果たして主人公、鹿目(かなめ)まどかは「過去、現在、未来、全宇宙に存在するすべての魔女を、生まれる前に自分の手で消し去ること」を願い、魔法少女となった。そして強大な魔女「ワルプルギスの夜」を打倒した後、史上最強の魔女となった自分自身をも消し去る時間軸を越えた存在として、誰にも知覚されない宇宙法則の一部に成り果てた。

 人類史以来、自分の存在に絶望して死んでいくしかなかった数多の魔法少女たち、そのすべてのために自らの命を捧げた彼女の自己犠牲に、Kはキリストの愛、すなわち罪なる存在に運命付けられた人間に、救いの道をその血を懸けて用意した主イエスの自己犠牲を見たのである。

 唯一まどかの存在を知る者となった魔法少女、暁美ほむらの福音書にはこう書かれるべきであると、Kは言う。

 「まどかはその存在を全宇宙に磔にすることも厭わなかったほどに、この世を愛してくださった。それは希望を信じて魔法少女になる者がひとりも魔女にならないで、円環の理ことわりに導かれるためである」

 円環の理とは、まどかによって因果律が書き換えられた世界において、存在を全うした魔法少女がまどか(円)へと召されることを言う。「人がその友のために自分の命を捨てること、これよりも大きな愛はない」とあるとおり、まどかの願いはまさに愛であった。親のためであっても、想い人のためであっても、その報いが自分に返ってくることを望みながら願ったために絶望を見た魔法少女もいたが、それを「救いようのない世界」と述懐したほむらも、「まどかの愛した世界」に生きていくことを受け入れて、寛容で、無作法をしない愛を知っていく。

 Kが私に問うてきたことの一つが、「キリストの十字架は、キリスト以前の人々のためでもあったのか」である。私はまどマギを見てから、今いまし、昔いまし、やがて来たるべき方について深く考えざるを得ない。過去、現在、未来にわたる魔法少女の救済は、われわれに一つのイメージを与えアナロジーを提示した。因果律書き換え以降、まどかの姿は確認できなくなる。しかし、ほむらの心には確かにまどかは生きており、実際事実として生きている。

 啓示たるイエス、つまり「既知の平面を上から垂直に切断する、われわれにとって未知の平面」(バルト)が「万事を益としてくださる神」によっていつかの日にKの心に来てくださったように。

(御堂大嗣)

【作品概要】 魔法少女まどか☆マギカ

 大好きな家族がいて、親友がいて、時には笑い、時には泣く、そんなどこにでもある日常。市立見滝原中学校に通う、普通の中学二年生・鹿目まどかも、そんな日常の中で暮らす一人。ある日、彼女に不思議な出会いが訪れる。この出会いは偶然なのか、必然なのか、彼女はまだ知らない。 それは、彼女の運命を変えてしまうような出会い――それは、新たなる魔法少女物語の始まり――(公式サイトより)

 新房昭之監督、シャフト制作によるテレビアニメ作品。願いを叶えた代償として「魔法少女」となり、人知れず人類の敵と戦うことになった少女たちに降りかかる数奇な運命を描いた作品。2011 年1 月から4 月まで毎日放送ほかで深夜アニメとして放送され(全12 話)、12 年にはテレビシリーズの総集編、13 年には新編として映画化されたほか、漫画やゲームなどとのメディアミックスも広く展開された。

■原作 Magica Quartet
■監督 新房昭之
■シリーズディレクター 宮本幸裕
■脚本 虚淵玄
■キャスト 悠木碧、斎藤千和、水橋かおり、喜多村英梨、加藤英美里、野中藍
■キャラクターデザイン 蒼樹うめ(原案)、岸田隆宏
■音楽 梶浦由記
■アニメーション制作 シャフト

 

「Ministry」掲載号はこちら。

【Ministry】 特集「新しい賛美のカタチ」 23号(2014年秋)

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