映画『最後の命』公開記念対談 「罪」と向き合う旅の果てに 松本准平(映画監督)×古賀博(日本基督教団早稲田教会牧師) 2014年12月13日

 柳楽優弥さんの主演や米チェルシー映画祭での最優秀脚本賞受賞で話題を呼んだ中村文則原作の映画『最後の命』。幼少期に凄惨な婦女暴行事件の現場を目撃した幼い2人が、その忌まわしい記憶に翻弄されながら、それぞれの「性」「罪」と向き合い、儚い「生」をつむいでいく物語。監督は長崎で生まれ、カトリック教会で洗礼を受けながら、プロテスタントの教会にも通うという特異な体験を持つ松本准平さん。新進気鋭の監督が見据えるのは絶望か、希望か。映画の公開を機に、牧師として説教者として、数多くの文学に触れてきた古賀博さん(日本基督教団早稲田教会牧師)との対談が実現した。

古賀 中村文則さんの作品では他に『掏摸〈スリ〉』と『王国』を読みましたが、『最後の命』をよく映像化しようと思いましたね。

松本 中村作品を読んだ時に、キリスト教的な文脈を理解して書いておられると感じました。特に『最後の命』の内容は、僕の伝えたいテーマと合致していたので撮ってみたいと。ただ僕の中では、良い作品を作りたいというのはもちろんですが、人に何か精神的なメッセージを伝えたいという点に重きがあって、2012年に作ったデビュー作の『まだ、人間』も含め、「罪とは何か」という問いを追究する旅だったと思います。罪って何ですかね。

古賀 難しい問いですよね。自分の中にも非常に汚い部分があると思っています。ひと皮むけば、どう豹変するかわからないようなものを抱えている。それと向き合わずに、教会でいう「神に背く罪」を紋切り型に語ってもあまりに象徴的すぎる。『最後の命』は、それが具体性をもって描かれている作品です。現実にもこうした犯罪や事件はあると思います。

松本 個人的な印象ですが、カトリック教会では「罪」の問題をあまり語らない印象があります。プロテスタント教会に行くようになってから、「罪」の問題を繰り返し聞かされて、映画を撮ることで自身の罪悪感を昇華してきたようなところがあります。中村さんの原作ではありますが、僕のプライベートフィルムのような側面が強いかもしれません。

古賀 それはプロテスタントの弊害かもしれませんね。あまり「罪」の意識を強調しすぎると、恐怖を抱いて追い込んでしまうケースがあります。主人公の桂人の場合も、自分の欲望に対する嫌悪感から抑え続ける。でも抑えられる人はいいのですが、対極の救われた「自由さ」も提示しないと、ただ深みにはまっていくだけ。

わかりやすさを求める時代

古賀 最後に桂人が(精神病棟の)窓を開けるシーンは印象的でした。あそこに希望が象徴されている。

松本 ありがとうございます。意外にも「希望がない」とか「絶望的」「救いがない」という感想をいただいて、ちょっと驚いています。彼ら2人の状況そのものは確かに絶望かもしれませんが、心の中では変化があって、必ずしも最悪の結末ではないと思っています。死が決して終わりではないという感覚は、やはりクリスチャンならではなのでしょうか。

古賀 おそらくそうでしょう。わたしはむしろ原作より、映画のほうが希望を感じられる終わり方だったと思います。いずれにしてもテーマは重い。単純でわかりやすい軽薄なものが受ける時代に、よくチャレンジしたなと。

松本 そうなんです。自分の感覚としては世の中にとっても必要だと思って作りましたが、経済活動として成り立たないと撮り続けられないという制約の中で、どう精神的に刺さるメッセージを伝えればいいかというのは、僕自身の課題でもあり、キリスト教の課題でもあると思っています。一方で、「こういう映画は観たことがない。この歳でこんな作品に出会えて良かった」と絶賛してくれる若い女の子もたまにいて。こういう問いを本当は抱えているのにもかかわらず、ぶつかる必要のない社会なんだろうなと驚きました。

古賀 『最後の命』のような問いは、解決のつかないものが延々と残るわけじゃないですか。キリスト教を信じるということも単純明快にはいかない面があって、そう簡単に「これが絶対正しい」とか「これをすれば救われる」ということは言えない。信徒からも「もっとわかりやすく」と求められることがありますが、もやもやを抱えたままごちゃごちゃ言いながら、生きていくしかないんじゃないかと。教会が「いい人」の集いになってしまっているので、この作品が問うているような人間の暗部や性の問題について突きつけるのはやはり難しいですね。

松本 確かに、僕の作品は、「反キリスト教的」と言われることもあります。

松本准平監督

古賀 それは教会側が乗り越えなければならない課題だと思うんです。現実を見ずに、いったいどこに聖書やキリストの教えが生きているんだと思うこともあります。

松本 これからの世界はさまざまな状況が悪化するように感じているので、キリスト教にはがんばってもらわないと。もっと大きい敵と戦わなければならない状況なので、仲間内で争っている場合じゃない。形として一つにならなくても、一緒に行動することがもっと普通になればいいなと思います。

古賀 そのとおりですね。次回作の構想は?

松本 罪の問題は自分の中でひと区切りついたので、今度は闇を前提にしつつ、光としての救いを描ければいいなと思います。本当に人の心を動かすのは、圧倒的な希望だと思うんですよ。

古賀 大いに期待しています。今回の出会いに感謝いたします。

松本 ありがとうございました。

(撮影協力 早稲田奉仕園)

 まつもと・じゅんぺい 1984年長崎生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院建築学専攻修了。吉本総合芸能学院(NSC)東京校12期生。NPO法人を設立し映像製作を開始。2012年、劇場監督デビュー作『まだ、人間』を発表。

 こが・ひろし 1960年福岡生まれ。早稲田大学商学部卒業後、東京神学大学へ編入、同大学院修士課程を修了。90年から日基教団牧師。初任地は早稲田教会で伝道師として赴任。93~2006年の13年間、山口信愛教会で奉仕し、06年より早稲田教会に戻る。

©2014 beachwalkers.

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