【空想神学読本】 「ジョジョの奇妙な冒険」にみる選民イスラエルの召命 Ministry 2015年春・第25号

 パリのルーヴル美術館にも、その原画が展示された「ジョジョの奇妙な冒険」の作者、荒木飛呂彦。いまや国境を超え、世界的に、そしてアート界でも認められた作品に潜む、神学的寓意を読み解く。

 『ジョジョ』はジョースター家の血統と因縁の物語である。第1部の主人公はジョナサン・ジョースター。第2部の主人公はその孫であるジョセフ・ジョースター。第3部の主人公はさらにその孫の空条承太郎。第6部の主人公は承太郎の娘・空条徐倫(4、5部も血統に属するが割愛)。その血統が各部で対決するのは、第1部のラスボスであるディオとその影響下にある者たち。

 ディオは「おれは人間をやめるぞ! おれは人間を超越するッ」と叫んで、石仮面を被り、悪のカリスマとなる。聖書では、アダムとエバが「それを食べると、目が開け、神のように善悪を知るものとなる」(創世記3章5節)と唆されて木の実を食べてしまい、罪人として歩み始める。ここで共通するのは、人間であることを喜ぶことよりも、人間をやめ、神のような超越的存在を目指そうとすることである。人間にとって悪とは、つまり悪とは、人間であることを否定することなのだ。

 ディオによる悪が入ってきた世界に、ジョースター家は立ち向かうことになる。同様に、人類に入ってきた罪に対して神は選民イスラエルを立てる。「アブラハムとその子孫、つまりイスラエルが神から選ばれたのは、全人類の中で彼らだけが救われるのではない。全くその反対で、彼らを通じて世界が救われるため」(山口希生「パウロにとっての『救い』――N・T・ライトの視点を通じて」2014年11月号「福音と世界」9頁)なのである。

 ジョースター家は世代を越え、ディオとその影響下にある悪と闘わなければならない選ばれし血統であるが、それは世界の中でジョースター家だけが救われるためではない。まったくその反対で、ジョースター家を通じて世界が救われるためである。選民イスラエルとは他民族を抑圧し支配する民ではなく、世界が彼らを通じて救われるために立てられるのだ。

 ジョースター家の血統は第6部で途切れる(第7部以降は19世紀後半に逆戻りし、パラレルワールドでの物語として再スタートとなるので、物語は第6部でいったん完結している)。最後の血統は空条徐倫、女性である。少年誌で女性が主人公というのも大変興味深い(フェミニズム神学の視点で考えても面白いだろう)。それに対し、第6部のラスボスはプッチ神父という聖職者である。

 彼は聖書が語るものではなくディオが見出した「天国に行く方法」こそ「すべての人類が到達すべき幸福」と信じ、その実現に向けて殺人すら厭わない神父として描かれる。神から始まったはずの信仰が、いつの間にか自分本位の信仰に変容してしまう。これはイエス自身も遭遇したことでもある。

 選民イスラエルの召命を果たそうとせず、自分本位の宗教に変容させた当時の宗教家たちから、自分たちの宗教を邪魔する者としてイエスは逮捕され、十字架で殺された。そしてイエスの生と死はイスラエルの召命を忠実に果たしたものであり、人類を救うものとなった。他方、聖母マリアのような大きな人間愛を持った人物として描かれた徐倫は、プッチ神父が実現させようとする「天国へ行く方法」を阻止しようとしたため殺されてしまう。その死は11歳の少年エンポリオを守るためであった。

 実はこのエンポリオは、最終話でラスボスを倒すまで雑魚キャラ1人すら倒していないふがいない少年である。彼はジョースター家の血統ではないのだが、血統を越えてジョースター家の意志を継ぐ。この少年がラスボスのプッチ神父のトドメを刺し、ディオから始まった人間を否定する悪は終焉を迎える。

 キリストの弟子たちもある意味、金魚のフンのようにイエスについてまわった者たちである。そしてこのふがいない弟子たちがイエスの死後、新しい歩みを始める。イスラエルの血統を越え、あらゆる民族がキリストの弟子になり得る救いが始まり、教会が生み出されていくこととなった。キリストの弟子たちは人間が否定される悪の終焉を待ち望みながら、神と人を愛そうとしつつ1世紀から現代に至るまで歩んでいる。罪ゆるされ、神の民とされる「義認」の恵みの中で。

 「『義認』は教会を新しい存在、新しくされたイスラエル、として成立させる。ユダヤ人やギリシャ人というような区別とは性格の異なる、人種や社会が作る障壁を越えた存在としてである」( N・T・ライト『The New Dictionary of Theology(新神学辞典)』より「義認」の項、小嶋崇訳)

(日本ナザレン教団鹿児島教会牧師 久保木聡)

【作品概要】 ジョジョの奇妙な冒険

 ジョースター一族の、2 世紀以上にわたる因縁の戦いを描いた荒木飛呂彦による漫画。迫力あるストーリー、アクション、独自の世界観と擬音などが、幅広い年齢層を魅了してきた。第1 部から第8 部まで、19 世紀後半から21 世紀前半まで時代や舞台をさまざまに移してきた。1987 年から2004 年まで「週刊少年ジャンプ」で、2005 年以降は「ウルトラジャンプ」で30 年近く連載が続けられ(2015 年現在も連載中)、『ジョジョ』シリーズの単行本は計113巻が発売されている。

 2011 年にはファッションブランド「GUCCI」のブランド設立90 周年と作者の執筆30周年を記念して、ファッション雑誌「SPUR」に短編を掲載したほか、シリーズ25 周年を迎えた2012 年には、大型企画展やテレビアニメ化、ゲーム化など、数々のコラボレーションで話題を呼んだ。

■作者 荒木飛呂彦
■出版社 集英社
■掲載誌 週刊少年ジャンプ、ウルトラジャンプ
■レーベル ジャンプ・コミックス
■巻数 113巻(2015年3月現在)

 

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【Ministry】 特集「過疎と教会 今そこにあるキボウ」 25号(2015年5月)

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