リアリティある物語として『コラッジョ!! ドンボスコの夢は続く』 価値観のギャップから葛藤する過程を 監修・浦田慎二郎神父インタビュー 2015年7月18日

 助けを必要とする若者のために生涯をささげ、青少年教育に献身するサレジオ会を創立したドン・ボスコ。彼の生涯を漫画化した『コラッジョ!!』(ドン・ボスコ社)が話題を呼んでいる。夢もなく、人間関係に疲れた、どこにでもいそうなごく普通の高校生リクとマナが、ふとしたきっかけで19世紀のイタリアにタイムスリップし、ドン・ボスコと生活を共にするオラトリオの子どもたちと出会うというストーリー。全編にわたって監修を担ったサレジオ会司祭の浦田慎二郎さんに話を聞いた。

ドン・ボスコの生涯を漫画化

――そもそも海外からの強い要望があったそうですね。
浦田 はい。日本の漫画のクオリティの高さは世界から注目されています。漫画に目の肥えた若者たちがつい引き込まれるような、これまでにないドン・ボスコの作品を目指しました。『コラッジョ!!』は、初めから海外版を想定した作り(横書き)になっていて、すでにイタリア語と英語の翻訳作業が進んでいます。

――漫画化に際して心がけた点は?
浦田 企画の段階から、ただの伝記ではなく、今の中高生が読んで自分たちの内面と結び付けられる内容が良い、ドン・ボスコの物語をリアリティのあるものとして捉えてほしいと話し合いました。リクとマナは、現代日本との価値観のギャップを体験する。最初はもちろん拒否反応を示すわけですが、葛藤しつつその良さに気付いていくという過程を、読者もいっしょに味わってほしいと考えました。ただ、あまりわざとらしい説教くさい話にはしたくなかったので、2人が劇的に変わって改心するような展開にはあえてしていません。あとはせっかく漫画にするので、ドン・ボスコのおどけた表情とか、ボールをぶつけられて痛がっている場面とか、漫画だからこそできる手法で、その人間らしさを表現するという点も大切にしました。

――時代考証など大変だったのでは?
浦田 たまたまドン・ボスコ生誕200周年で、わたしたちサレジオ会が巡礼する機会があり、漫画家の鈴木ぐりさんにも同行していただきました。単に現地を見るだけでなく、わたしたちとの生活を一緒に体験してもらった方がオラトリオを理解してもらえるんじゃないかと。それが大正解でしたね。リクとマナがオラトリオに持つ違和感など、その時のご自身の体験がかなり生かされています。

――今日の教会も世間の価値観とはだいぶ違うわけで、初めて来た子たちも同じ葛藤を覚えるのかなと。
浦田 ドン・ボスコが提唱している教会の姿というのは、みんなで取り組んで何かを作り上げたり、分かち合ったりという体験ですが、今日の教会にはありません。そういう文化を少しずつ作っていく必要があると思います。作るのは難しいですが、壊すのは簡単です。それこそドン・ボスコのように、自分の神経を注がなければ生まれてこない。

――実際の監修作業はいかがでしたか?
浦田 漫画家と編集者を交えて何度も会議を繰り返しました。この世界にどっぷり漬かっていると、一般の人にどこまでピンと来る話かわからなくなるところがあります。そういう意味で、信者ではない方にも加わっていただいて、その発想を取り入れるのは大切だと思いました。こちらの世界で当たり前だと思っていることが、当たり前でなかったりするので。

――今後の課題は?
浦田 僕はイタリアに7年いたのですが、イタリアの若者はわからなければどんどん質問してくるんです。つまりものを考えている。日本の若者からはあまりそういう反応がないのかなと。みんなよく言えばとても素直です。あまり本を読まないという流れも影響しているかもしれませんし、教育のあり方の問題かもしれません。そういう層に読んでもらうためには、やはり提供するクオリティを上げて、手に取りやすい良い物を作るしかないと思います。一般の読者に届けるための工夫など、やっとわたしたちの足りなさに気づいてきたところなので、これからです。もちろん、あまりに戦略的になってもいけないと思いますが、もう少し世間にアピールできるような何かが必要だと考えています。

――ありがとうございました。(聞き手 松谷信司)

編集に携わった浦田雅子さん(スタイル株式会社)の話

 わたし自身、信者ではないのですが、ドン・ボスコの名前は子どもの受験を通して知っていて、以前から偉人漫画を作りたいという思いもあったので、依頼が来た時に絶対やりたいと思いました。

 神父さんにお会いするまで、常に冷静沈着で毅然として振る舞い、どこか神格化されたイメージを持っていたのですが、ごく普通の気さくな方々で驚いたのを覚えています。キリストは子どもが憧れるようなヒーローで、それを伝えたのがドン・ボスコだとお話をうかがい、実は予想以上にキリスト教との垣根は低く、門戸も開かれているんだと感じました。

 完成まで11カ月間、たいへんな時期もありましたが、ドン・ボスコが残した言葉「心は元気?」や神父さんたちの何気ない会話に助けていただきました。

 最後に登場人物が神父を目指すようになるという案もあったのですが、あまりにベタ過ぎてやめました。主要スタッフが信者ではなかったので、一般的な感覚を重視でき、それをサレジオ会が外部の意見も大切に受け入れてくれたことが功を奏したと思います。

 漫画は宗教と親和性が高いのに、書籍に比べると文化的には下に思われがち。でも、ていねいに作れば世代も国境も越えた共通のツールになると思っています。

©Guri Suzuki 2015/ドン・ボスコ社

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