【メッセージ】「力を捨てよ、知れ わたしは神」 古本みさ 2015年12月25日

「力を捨てよ、知れ わたしは神。国々にあがめられ、この地であがめられる」(詩編46・11)

 布にくるまって飼い葉桶の中に寝ているあかちゃんのイエス様、どうしてこんなに穏やかに眠っておられるのかしら。子どもたちと共にクリブを飾りながら思いを馳せました。それは、真っ暗闇の岩穴に造られた家畜小屋です。辺りは思わず息を止めたくなるような独特の臭いがたちこめ、湿った地面は足の踏み場を選ばなければなりません。

 もしお生まれになったのが本当にこの寒空の下だったなら、どんなにか凍えたことでしょう。明かりはただ一つのランプと洩れ入る月の光のみ。牛が鳴き、ロバがいななき、ニワトリが羽をバタつかせて飛び回ります。そのような中で、いかなる医療機器もきれいなお湯も、心地よいブランケットも清潔な産着さえもない中で、わたしたちの主イエス様はお生まれになり、眠っておられるのです。こんなにすやすやと、まるで超高級羽毛布団にくるまっているかのように。

 母マリアは、天使からその赤ん坊が自分たちのためにお生まれになった主メシアであることを告げられた、羊飼いらの話を聞きます。そして、その出来事をすべて心に納めて、以前自分が天使ガブリエルから受けたお告げと照らし合わせながら、静かに思い巡らしました。この子はいったい何者なのでしょう。彼女にはわかりませんでした。それでも、この安らかに眠るあかちゃんの存在が、最悪とも言える困難な状況に伴う彼女の恐れをすべて取り除いてくれたことは確かであり、ひょっとしたら、本当に、この混沌たる世界に真の平安をもたらすお方なのかもしれない。そんな思いがこみ上げてきたことでしょう。静かな、静かな夜のことでした。

 それから30年ほどたったある日のこと、大人になったイエス様のやすらかな寝顔は、今度は弟子たちを驚かせます。それは、突風の吹き下ろしたガリラヤ湖。大風と共に波が突然高くなり、小舟は今にも呑み込まれそうです。水がざばざばと舟の中に入ってきて、もうだめかと弟子たちが絶望の淵に立ったその時、事もあろうにイエス様は眠っておられるではないですか! 水をかぶり、身体さえも転がっていきそうな大揺れの船の上です。穏やかな寝息をたてておられるイエス様に近寄った弟子たちは大声で叫びました。「先生、何をのん気に眠っておられるんですか。わたしたち、おぼれてしまいます」

 大きなあくびをし、眠い目をこすって起き上がられたイエス様は風と荒波を静めました。そして、直前まで慌てふためき、真っ青な顔をしていた弟子たちをやさしく見つめ、言われたのです。「あなたがたの信仰はどこにあるのか」

 弟子たちは恐れ驚き、互いに顔を見合わせて言いました。「この方はいったいどなたなのだろう」。舟は再び、静かな、静かな湖を進みだしました。

 この方はいったいどなたなのでしょう。その方は、ひょっとしたら、わたしたちが思っているようなお方ではないのかもしれません。わたしたちが求めるのは、常に先回りをして行く手にあるさまざまな困難からわたしたちを遠ざけてくださるお方です。

 わたしがもしマリアだったなら、神のみ子を産むのにこんなに苦労させるなんて!と神さまに文句を言ったことでしょう。わたしがもし弟子の一人だったなら、向こう岸へ渡ろうとわたしを招いたのは主イエス様なのに、こんな怖い目に遭わせるなんて! とつぶやいたことでしょう。

 でも、わたしたちの主は、耐えがたいほどの困難や苦しみの中で、わたしたちのすぐそばで、静かに安らかに眠っておられるお方なのです。このイエス様の眠るお姿がわたしたちに伝えているのは、「静まりなさい」ということ。何があろうと、どんな壁が目の前に立ちふさがろうとも、騒ぐな、うろたえるな、抗うな。ただ、静まって、わたしがそこにいることを知りなさい、あなたの神であるわたしを信じなさい、ということです。

 クリスマス、それはわたしたちの心がどんなに暗くて寒くて汚い家畜小屋のようであっても、あるいはどんなに波たける嵐の湖のようであっても、主がいつもわたしたちと共にそこにおられることを思い起こす日です。世界は今、完全にイエス様を見失ったかのようです。このクリスマス、自らの力を捨て、傲慢な心を拭い去って、飼い葉桶に静かに眠るイエス様に出会い、すべてをゆだねましょう。主はあなたと共におられます。

 

  ふるもと・みさ 1972年神戸市生まれ。米国マウント・ホリオク大学卒業、イェール大学神学大学院修士課程修了。JTJ宣教神学校、日本聖公会ウイリアムス神学館での勉学を経て、2015年7月に日本聖公会司祭按手を受ける。現在、平日は平安女学院中高チャプレンとして、主日は牧師である夫の司牧する日本聖公会桃山基督教会にて奉仕。小学2年の長女と1年の長男の母。訳書にバーバラ・ブラウン・テイラー『天の国の種』(キリスト新聞社)。

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