「教会と地域福祉」第5回シンポ 若者の居場所はあるか  2016年4月9日

 教会と地域の連携を図り、キリスト教福祉の再興を模索する「教会と地域福祉」フォーラム21の第5回シンポジウムが3月12日、日基教団聖ヶ丘教会(東京都渋谷区)で開かれた。高齢者福祉、児童福祉、精神保健福祉、死生学に続き、今回は「居場所を失う若者たち――教会と地域ができること」をテーマに、社会心理学者の碓井真史氏(=写真。新潟青陵大学大学院教授)が基調講演。トークセッションでは、学生キリスト教友愛会(SCF)主事の野田沢氏、東京YMCA「リビー」スタッフの小倉哲氏、カトリック青年労働者連盟(JOC)会長の宇井彩野氏、東京基督教大学大学院教授の稲垣久和氏が登壇した。教派を超えて集まった牧師、信徒ら約90人は、ニートや引きこもりなど、若者たちを取り巻く現状と、「居場所」を回復するために地域と教会がいかに連携できるかについて話し合った(キリスト新聞社、東京基督教大学共立基督教研究所共催)。

 碓井氏は大学で接している学生たちの中に、周りに気を使い、反発もせず「優しい良い子」が多いという実情を紹介し、「授業では正解を求めていないのに、不正解を言わせるのがとても難しい。彼らには、リラックスしてのびのびと活動できるという『居場所感』がない」と述べた。

 また、心理学でいう「ギャングエイジ」がなくなり、大人は敵ではなく、親も乗り越えるべき壁ではなくなったことにより、凶悪な少年犯罪は減少したものの自己肯定感や将来への希望を失っていると指摘。

 国際的な比較調査から、日本という社会があまりに複雑で安定しているため、「自分が世界を変えることができる」という感覚が希薄で、「努力しなくてもほどほどの生活があるし、努力しても素晴らしいことは起きない」と考える若者が多いと分析した。さらに、「無力感を抱く若者が、一方で『人の役に立つことはしたい』と答えていることは唯一の救い」とも加えた。

 そうした若者の心が健康になる条件として、自己肯定感や内発的動機づけが高まる「居場所」の回復を挙げ、ポジティブ心理学が実証した「感謝する」「目標を目指して熱中する」「人と比較しない」「楽観的に」「親切に」「人を許す」「内面を重視する」といった「幸福になる行動習慣」が、聖書の教えとも通じると紹介。

 「若者は私たちと違う時代、環境を生きているということを理解してあげる必要がある。『僕は誰にも愛されない』『居場所がない』『何の役にも立たない』という若者に対して、『神様はあなたを愛しているし、あなたにも目的があり、使命がある。あなたは神様によってその環境に置かれている』と知らせることが、教会の役割だと思います」と呼びかけた。

 講演の後、東京基督教大学大学院の教会教職者で学ぶ近藤真史さんが、2年間のひきこもりとうつ病を患った当事者として、その体験を紹介。同世代の若者たちとバンド演奏を披露した。

 続いて発言した野田氏は、集う若者のうち7割が信者ではないというSCFの特徴と活動を紹介し、今の教会や礼拝、説教の中に若者の居場所があるかと提起。若者が教会に求めているものと、私たちが想定している「青年宣教」のあり方とのギャップを指摘しつつ、「教会は、彼らのために変わる覚悟があるかを問われている」と述べた。

 自身もかつてはひきこもりを経験したという小倉氏は、不登校の子どもたちに居場所としてのオープンスペースを提供してきた東京YMCA「リビー」の活動を紹介。「働いてこそ一人前」という価値観や親の責任感などにより、ひきこもりが改善すべき心配なこと、隠したいこととされ、社会から見えなくされていくという過程を説明し、自分と違う人とのやり取りを増やすことによって、他者を認めたり、受け入れたりすることができることから、「多様な人が関わり合える豊かな交流の場が必要」と訴えた。今回の登壇者では唯一信者ではない同氏は、「教会にはまだまだたくさんの可能性がある」との期待も語った。

 2011年からJOCの活動に参加したという宇井氏は、ベルギーの神父が1911年に数人の若者と始めたという立ち上げの経緯を紹介し、国内では札幌、東京、大阪、広島に拠点があることや、若者自身が主体となってそれぞれの生活や仕事の状況を見直し、実行プランを立てるという活動の原則を披露。不安定な雇用と働き方、主張させない教育、仲間を作らせない社会など、若者に共通の課題を挙げ、「人が大切にされているか」を基準に、人間らしい健康的な生活ができる「豊かな場」を作ることの必要性を強調した。

 午後の分科会では、参加者が講師と登壇者を囲んでグループに分かれ、それぞれの所属する教会や地域での現状を共有した。

 かつて髪の毛の色を染めて教会に通っていたという女性は、「視線や口調で自分が受け入れられているかどうかはわかる。私たちの世代は、褒められれば単純に嬉しいので、もし(上の世代の教会員が)若者を理解しているならば言葉に出して言ってもらった方がいい」「教会に若者が1人でもいるならば、『うちの教会には若者が少ない』と卑下せずに、自信を持ってほしい」「教会に誘うことがすべてではない。建物そのものが教会ではないので、外に出ていくことも教会の働きの一部」と発言した。

 別の分科会に参加した女性は、「そもそも、なぜ教会に若者が来てほしいと思っているのかを問われた。若者のためと言いながら、実は教会の都合だけのために来てほしいと願っていたのではないかと改めて気づかされた」

 全体を通して若者自身の声に耳を傾けることの重要性が確認され、教派と世代を超えた語り合いが繰り広げられた。

 総合司会を務めた佐々木炎氏(ホッとスペース中原代表)は、「若者の問題は若者自身だけでなく、わたしたち『大人』の問題であることを自覚すべき。教会はどうしても若者を手段として見がちだが、そのしなやかな感性と発想に助けられながら、共に互いの苦しみと喜びを語り合える『空間』を作っていきたい」と抱負を語った。

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