ミャンマー 「他者と共に生きる歓び」 世界宗教者平和会議がシンポ C・ボー枢機卿ら10人参加 2016年4月23日

 ミャンマーで先月末、アウンサンスーチー氏が党首を務める与党、国民民主連盟(NLD)による新政権が発足した。同国では半世紀にわたって軍主導の政治が続いていたが、民主的な選挙を経て文民政権が誕生した。民主化が進む一方で、ラカイン州ではムスリムの少数民族ロヒンギャと仏教徒アラカン族が対立するなど、民族間・宗教間の問題も表面化している。世界宗教者平和会議(WCRP/Religions for Peace=RfP)日本委員会は4月6日、ミャンマーの宗教指導者ら10人を迎えてのシンポジウム「Welcoming the Other(他者と共に生きる歓び)に向けた実践と課題」を妙智會教団本部(東京都渋谷区)で開催した。日本の宗教者や学者、市民など約200人が参加し、諸宗教・諸民族間の対話と共生の重要性について理解を深めた。

 WCRP/RfPミャンマー委員会は、同国の4大宗教である仏教、キリスト教、イスラーム、ヒンドゥー教を代表する諸宗教指導者によって2012年に設立された。

 今回、同委員会最高指導者のチャールズ・ボー枢機卿(カトリック・ヤンゴン大司教)をはじめ、キリスト教からは、同委員会創設メンバーのソウ・シュエ・リン牧師(ミャンマー・キリスト教協議会総幹事)、同委員会女性ネットワーク議長のド・イン・イン・モウ氏(ミャンマー・キリスト教協議会前会長)、同委員会事務総長のジョセフ・マウン・ウィン神父(ミャンマー・カリタス・ヤンゴン・ディレクター)が参加した。

 ボー氏は昨年1月、教皇フランシスコによりミャンマーから初めて枢機卿に任命された。基調発題の中でボー氏は、「キリスト教の神の目から見ると〝他者〟は存在しない。あらゆる人が神の形に造られており、譲ることのできない人間の尊厳を有している」と話し、その特性は受胎した瞬間から備わっているのであって、だからこそ教会は死刑や中絶に反対しているのだと述べた。

 また、欧州の難民危機に触れ、教皇フランシスコが難民を支える象徴的行為として難民の足を洗ったことを紹介し、「かつてはキリスト教の大陸であった欧州が、他国人を受け入れ、他者を同じ権利を持つ者として扱うことを求められている」と指摘した。

 次に、今日のミャンマーで懸念される分野として、「貧しい人との対話」と「諸宗教対話」を挙げた。同国の貧困率はおよそ60%であるとし、「あらゆる宗教の貧しいミャンマー人が正義と融和の焦点となることを期待している」と述べた。また、ロヒンギャの問題などを挙げ、あらゆる宗教が平和な国づくりの努力ができるよう、新政権への期待を語った。

 そして、ミャンマーでは60年にわたり、政府と民族社会との対立が慢性的な戦闘になってきたと話し、WCRP/RfPが民族社会に深く根を下ろした活動をし、平和と正義の教育をしてきたと振り返った。

 最後に、日本とミャンマーの協力可能な部分について言及。「ミャンマーの未来は融和にある」と述べ、「新政府はさまざまな分野の利益の調和を図ることによって傷を癒そうと努めている」と強調。両国の活発な協力に期待を寄せ、WCRP/RfPミャンマー委員会が日本委員会と協力して、ミャンマーでの原理主義の台頭を監視していく必要があると訴えた。

 さらに、「我が国の紛争のほとんどは不公平の結果生じている。貧しさに対する経済的な不公平、民族グループに対する環境的な不公平が原因」と述べ、貧しい人を枠組みとする包摂的な開発を行うことと、少数民族の住む地域における自然への配慮を訴えた。

 「正義なくして平和はない。正義は多くの宗教の核心的な価値観。聖書では神自らが正義である。世界宗教者平和会議は世界宗教者〝正義〟会議にならなくてはならない」

 「ミャンマーにおけるWelcoming the Other――平和と民主化のための諸宗教協力の実践」と題したパネルディスカッションでは来日した10人全員が登壇。コーディネーターの杉野恭一氏(WCRP/RfP国際委員会副事務総長)からのミャンマーの現状についての問い掛けにボー氏が応答した。

 ボー氏は、新政権に多くの期待が寄せられる一方で、経済はまだ軍部やエリートが支配し続けているとし、そこから出て来たネオファシストのグループが宗教を操り、少数民族の中の誰かをスケープゴートにしてしまうような動きがこの数年見られると指摘。そこから宗教的な紛争が起こり、多くの国内避難民を生み出しているとして、宗教間のモニタリンググループが必要だと主張した。

 宗教者の戦略的役割についてソウ・シュエ・リン牧師は、人々や当局に対して主張すること、国際社会との協調を図ることを挙げた。そのために他者との協力が必要だとし、平和のための能力強化を訴えた。

 唯一の女性参加者であるド・イン・イン・モウ氏は、「女性、子どもがいつも紛争の犠牲者になっている」と指摘。宗教が紛争のために使われてきた結果、互いに距離を置く結果になったとし、宗教指導者は常に協力し、貧しい人たちのために戦っていくことが必要だと述べた。

 ジョセフ・マウン・ウィン神父は、1962年以降学校では宗教の教義が適切な形で教えられてこなかったとし、「民主化され、これからはわたしたちの宗教教義を正しく教えることができるようになると思う。そうすると彼らの行動や姿勢、態度が変わり、互いに理解を深める土壌を作ることができると思う」とコメントした。

 宗教間協力を推進してきたWCRP/RfPミャンマー委員会会長のウ・ミン・スエ氏(ラタナメッタ仏教NGO代表)は、「宗教的な紛争はミャンマーにはない」と分析。紛争は軍事政権が起こしたものだと述べ、軍事政権が壊した諸宗教間の信頼を再構築する必要があると強調した。また、それぞれ原因の異なるラカイン州でのコミュニティの紛争とカチン州での武装紛争を挙げて「開発なくして平和はない」と述べ、紛争の原因として開発の遅れを指摘。開発活動を行うことで宗教間の信頼関係を高め、融和と平和をつくることがミャンマー委員会の戦略だと話した。

 ミャンマーからの訪日団は7日、参議院議員会館を訪れ、WCRP国際活動支援議員懇談会のメンバーと面会。共同代表の谷垣禎一氏(自民党幹事長)、岡田克也氏(民進党代表)など約20人の国会議員が参加した。その後、外務省で木原誠二外務副大臣と面会。日本政府によるインフラ整備、産業、教育支援に対する謝意を述べ、高等教育や技術教育へのさらなる支援を求めた。

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