実録映像交え「凡庸な悪」浮き彫り 映画『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』公開 2016年4月23日

 1961年、元ナチス親衛隊将校を被告とする裁判が全世界の注目を浴びた。被告の名はアドルフ・アイヒマン。欧州各地から絶滅収容所へのユダヤ人移送を統括したアイヒマンは「命令に従っただけの歯車の一人」だったと一貫して無罪を主張した。映画『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は、この裁判の中継放送を実現させたテレビマンたちを描く。

 600万人に及ぶ犠牲者を出したホロコースト政策。ドイツの敗色が濃くなり、ナチス最高幹部ハインリヒ・ヒムラーによるユダヤ人虐殺の停止命令が出た後も、アイヒマンは独自に車輌を確保してユダヤ人移送を続行した。アイヒマンとはいったいどんな男なのか。4カ月にわたる裁判を伝えた番組は、世界37カ国で放映された。

 法廷には100人を超える証人が出廷。絶滅収容所の生残者らの証言により明らかとなった国家犯罪の相貌は、視聴者の想像をはるかに超えて残虐なものだった。本作は当時放映された実録映像をふんだんに用いながら、並行してこの歴史的放送を実現させた男たちのドラマを映し出す。ドラマは放送実現のためアメリカからイスラエルへ飛んだ若き敏腕プロデューサーと、マッカーシズム(赤狩り)旋風により干されていた壮年監督を中心に展開する。

 ユダヤ人の政治哲学者ハンナ・アーレントはアイヒマン裁判を傍聴した後、現実に起こる悲劇的事件の根に蠢くのは超人的な巨悪ではなく盲目的な凡人の群れによる「凡庸な悪」だと述べた。

 本作は、アイヒマンの犯罪について一切の価値判断を控えた展開に終始する。主人公のテレビ監督は「誰もがアイヒマンになり得た」という立場を貫き、他スタッフと対立しながらも被告人席の表情だけを追い続け、アイヒマンが感情を露わにする瞬間を待ち続ける。本作において「凡庸な悪」はどのような顔を見せるのか。(ライター 藤本徹)

 ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中。

写真 (c)Feelgood Films 2014 Ltd.

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