第40回 日本カトリック映画賞に『あん』 〝寛容の尊さ訴えた作品〟 樹木希林さん登壇 2016年5月21日

 シグニスジャパン(カトリックメディア協議会、千葉茂樹会長)が、年に1度キリスト教の愛の教えに基づく福音的な映画を選び、その監督に贈る「日本カトリック映画賞」。1976年の開始から40回目を迎えた今年は、河瀬直美監督『あん』(2015年、エレファントハウス配給)が選ばれた。5月5日、なかのZERO大ホール(東京都中野区)で上映会と授賞式が開かれ、1292席のホールは来場者で満席となった。

 上映会の後、シグニスジャパン顧問司祭である晴佐久昌英氏(カトリック浅草教会・上野教会主任司祭)は、「この映画賞は映画そのものに贈られるというよりも、映画を観る人たちを励ましたい、元気を与えたい、辛い思いをしている人に何か希望を与えたいというのが、秘められた一番の選考理由」とあいさつ。
 千葉氏は受賞作『あん』について、「差別と偏見を背負って生きてきた女性と、罪と罰を背負って生きてきた男性とのいたわりに満ちた交わりを描くことで、人間に秘められた真の気高さを表現し、希望と光を感じさせる美しい作品。憎悪と不安が渦巻く危機の時代、寛容の尊さを静かに訴えた『あん』は、優しさを生み出す普遍的な価値がある」と述べ、河瀬監督の代理で出席した主演女優の樹木希林氏に表彰状とクリスタルガラスのトロフィーを授与した。

 続いてこの日出席できなかった同監督からのビデオレターを放映。監督は映像の中で、「40回目という節目の回にすばらしい賞をいただき、たいへん嬉しい。晴佐久神父の言葉を聞くにつれ、この映画に込めた思いが皆さんとともにそこに存在しているかと思うと感無量」と受賞の感想を語った。
 また、来賓であるローマ法王庁大使館大使ジョセフ・チェノットウ大司教が、「カトリックの世界観に沿ったすばらしい作品。教皇フランシスコが言うように、愛の文明に役立つものとなるよう心から祈る。これからのカトリック映画賞が、人間的、道徳的価値観を育み、社会の平和、宗教的寛容、人間の尊厳を大切にする世論に貢献していけるよう、今後の活躍を祈る」と祝辞を述べた。

 式の後、晴佐久氏の進行で、樹木氏、映画のオフィシャルアドバイザーを務めた観世あすか氏(花傳代表取締役)、『あん』原作者のドリアン助川氏による対談が行われた。
 観世氏はこの映画に関わった経緯について、「原作を読み、心が震えた。自分が『あん』に役立てるなら何でも手伝いたいと思った。全世界の人々がこの映画を観ているが、良い作品は言葉、国境、宗教の壁を越えることができる」と語った。

 ドリアン氏が原作について、「人間とは何か。なぜ生まれ、生き抜かねばならないのかという視点に立って書いた。どんな人もこの世に生まれてきた意味があると伝えたかった」と述べると、晴佐久氏が「カトリックの教えも同じメッセージを持っている」と応えた。

 樹木氏が「不自由を強いられていた徳江がどんどん解放されていって、自由なはずの14歳の子や中年の千太郎が自らを縛っている。映画の中でそこを伝えたかった」と述べると、晴佐久氏が「生きづらさを感じている青年たちにメッセージを」と樹木氏とドリアン氏に依頼。

ドリアン氏は「この映画のフィルムを持って会津に行った時、中学生たちに『君たちが生まれてきた時こそがビッグ・バン。誰もが宇宙を背負っている』と伝えたが、それは世代に関係なく誰もが等しく宇宙を背負っている」と回答。晴佐久氏が「まさにカトリックの教えそのもの。来週の説教に使っていいですか」と受けると、会場から笑いが起こった。

 樹木氏が、「(この映画の宣伝で)ウクライナに行った時『A Little Big Film』と言われた。小さな偉大な映画とは、良いことを言うなと思った。始めから大きなことをしようとするのではなく、小さなことに今を一生懸命生きるのが大切。それは青年に限らずどの世代でも大切な姿勢。ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領が『本当に貧しいこととは、欲を募らせる生き方。僕は質素なだけ』と述べていたが、今の若者は自身が経済などで評価されるのを恐れているのではないか。戦後経済が発展しても果たして幸せになったのかと問い掛けてみると、そこに鍵があるのではないか」と回答すると、聴衆から大きな拍手が贈られた。
 

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