教会が「居場所」を回復するために 「教会と地域福祉」フォーラム21 シンポ「居場所を失う若者たち」 2016年5月21日

 しばしば「若者不在の若者語り」に陥りがちな教会での議論。高齢化を食い止め、労働力を確保し、組織を維持するためだけに「青年宣教」が語られることも多い。「教会と地域福祉」フォーラム21(キリスト新聞社、東京基督教大学共立基督教研究所共催)では今年3月、「若者の居場所」をテーマに第5回目のシンポジウムを開催。会場の日基教団聖ヶ丘教会(東京都渋谷区)には、教派と世代を超えた老若男女、約90人が集まり、ニートや引きこもりなど、若者たちを取り巻く現状と、「居場所」を回復するために地域と教会がいかに連携できるかについて話し合った。基調講演、分科会別の討論を受け、登壇者を交えて行われたディスカッションの一部を掲載する(全文は今月発売の「ミニストリー」第29号に収録)。司会は佐々木炎氏(ホッとスペース中原代表)。

――どうしたら教会に若者の居場所ができるのでしょうか。

野田 わたしたちの分科会でもそのような問いがあり、みんなで悩みました。それが分かる魔法などないわけですが、やはり「人」ではないかと。まず、若者をどこまでも受け止めてくれる人。そしてその人を通して、最終的には神様につながっていく。わたしたちも教会、信仰に導かれたのは、ちょっと上の世代のおじさんやおばさんといった信仰の先輩方。どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう、というとこから教会につながっていったと思うんです。そのようなことが、自分の信仰の歩みを振り返っても思い出されます。

碓井 わたしが参加した分科会は、多数派の中高年と、ほんの少数の若者という、まさに教会の縮図でしたが(笑)、若者には若者の感じている不安や不満、疑問があり、中高年には中高年の思いがあり、実は思いはすでに一致しているんですね。仲良くしていきたいとか、一緒になっていい教会や地域、日本を作っていきたいとか。でも、お互いにまだ、ほんの少しやり方が分からない。今日の分科会では、「そうなんだ」「そうなんですね」というお互いの交流の中で何か見えてきた気がするんですね。こういう対話を教会の中でも展開していくことが大事なのかなと思いました。

小倉 ある方が言っていたのは、「自分も教会につながっているけれども、教会は家に近いような関係性だから、そこで誰かと交流するような場ではない。だけど、教会が持っているネットワークや情報をいろいろ紹介してもらって、そことつながりを持ちながら、自分が安心できる」ということ。自分だけで完結するのではなく、教会同士もそれ以外のところも、たくさん得意分野をつなげていけばいいんじゃないかと。個人的には、教会はこんなにたくさん、世界中に拠点を持っているので、ものすごいポテンシャルがあるんじゃないかという話をさせていただきました。僕はすごく期待しています。

宇井 分科会には同じJOCのメンバーも参加したのですが、彼女はJOCで自分を見直すことができたと話していました。JOCに集まってくれる人たちを見ていても、おそらく自分のことを深く話す場がないという若者は多いと思います。「こんなことを話したのはここが初めて」と言ってくれる人はすごく多いですね。

――こうした現状の中で教会に若者が集うことについて、希望を聞きたいのですが。

碓井 大学生に「今まで生きてきた中でいちばん幸せだったことは何?」と聞いたことがあるんですね。例えば、ディズニーランドに行ったとか、海外旅行に行ったとか、ゲームで遊んだとか……そいいう答えは出ないんですよ。いちばん多かったのは部活ですね。「中高の部活はきつかったけど楽しかった」。もう一つが、新潟の大学なので、地域の祭りなんです。東京は廃れてしまっているかもしれませんが、地方都市にはさまざまな祭りがあって、それぞれの地区ごとに、おじさん、おばさんと一緒に大きな凧を作ったり、神輿をぶつけ合ったりというのが、楽しかった思い出として残っているんです。決して中高年を嫌っているわけじゃないし、汗をかくことを嫌っているわけではない。
 むしろ上げ膳据え膳で何かをやってあげても、それは大して面白いと感じないんですよね。東日本大地震の後、避難所に何にもすることがなくて、ボーッとしている中高生がいて、そこに地域の牧師が来て、復旧作業をしているおじさまやおばさまと彼らをつなぐんです。そのことによって中高生が本当にいきいきと居場所を見つけていったという例を見せてもらったことがありました。
 若者たちは実はそういうことを求めている。おじさんやおばさんと一緒に何かをやっていきたい。それがたまたま、被災地でうまくいくかもしれない。それが教会という場所でうまくいっているところもあれば、まだいっていないところもある。でも、若者たちがそれを求めているならば、それに応えてあげるのが、主の手足であるわたしたちの役割であり、大人としての社会的責任であり、そしてそれをすることがわたしたちの大きな喜びになっていくのだと思います。

――若者を教会に招きたいというのは、実は若者のためだけではないと。

碓井 来てもらって、教会の人数が増えることだけではなく、若者たちが信仰を持っていきいきとしてくることが喜びだと感じられる中高年は、いくつになっても絶望しません。

――実は若者に来てもらうことで交わりをして、変わることで、わたしたちの喜びや成長となる。若者と関わることが本当は益なんだということを、しっかり自覚していないと、若者なんて本当は来てほしくないというのが本音の部分であるのかなと。

野田 そうですね、このシンポジウムに来ていない人に伝えていかなければいけないですね。ここにいる方々は若者の声を聞こう、変わろうとしている人ですから。
小倉 僕たちは主体は誰なのかとか、ついつい恩着せがましくなる。愛情と恩着せは紙一重だなとよく思うのですが、本当に若い人たちはどう考えているのかということを常に考え、想像しながらでないと、見失うことも多いのではないかと思いました。

【登壇者プロフィール】(写真右から)

宇井 彩野 うい・あやの カトリック青年労働者連盟(JOC)会長。働く若者・働きたい若者が集まり、それぞれの生活に根差した行動を起こしていくJOCの活動に2011年から参加し、13年から全国チームメンバー、15年より全国会長を担当。

小倉 哲 おぐら・さとる 立教大学コミュニティ福祉学部中退。学生のころに東京YMCA〝liby〟に出会い、2005年からスタッフに。「もなか」というニックネームで「居場所」に関わり続けている。

野田 沢 のだ・たく 日基教団学生・青年センター「学生キリスト教友愛会(SCF)」主事、牧師。桜美林学園チャプレン室、桜美林教会副牧師を経て、現職。青山学院女子短大、東北学院大学講師。日本基督教団震災担当幹事補佐として被災地と関わり続ける。

碓井 真史 うすい・まふみ 日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。新潟青陵大学大学院教授。博士(心理学)。新潟市スクールカウンセラー、テレビ新潟番組審議委員を兼任。専門は社会心理学。著書に『あなたが死んだら私は悲しい』『誰でもいいから殺したかった』など。「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「ホンマでっか!?TV」など、テレビ出演も多数。

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