宗教の本質は「思いやり」 日本ルーテル神学校 DPC デール記念講演で本人が初登壇 2016年5月28日

 日本ルーテル神学校の附属研究所「デール・パストラル・センター」(DPC、石居基夫所長)は、その名の由来となった日本ルーテル神学校・ルーテル学院大学名誉教授のケネス・J・デール氏(=写真、米国福音ルーテル教会牧師)を招き、日本福音ルーテル東京教会(東京都新宿区)で5月14日、デール記念講演を開催した。同講演は今年で3回目を迎えるが、デール氏本人が登壇したのは初めて。米カリフォルニア州クレアモント在住の同氏は、「21世紀を生きる 人間性の牧会的理解――90歳をむかえて」と題し、約130人の聴衆の前で講演した。

 日本福音ルーテル教会で50年以上宣教師として働いたデール氏。1982年にはルーテル学院大学内に人間成長とカウンセリング研究所(PGC)を立ち上げ、14年間所長を務めた。PGCは2012年に終了したが、その働きの遺産を継承し、同氏の名を冠したDPCが14年に発足した。DPCは、「キリスト教信仰に基づき、人間の癒しと成長を助けることを中心とする牧会的働きの研究や実践を通して、教会や社会に貢献する」ことを目的としている。
 デール氏は、PGCのシンボルマークが、「丸の中に五つの組み合った環」であったこと、その環とは「身体」「知性」「感情」「社会性」「霊性」を表していたことを説明。今回の講演ではその五つの環について、90歳の牧会者的視点から率直な見解を語った。
 まず「身体」の中で特に「性」について言及。「性は神さまのすばらしい創造だが、人々の理解はさまざま。今米国では同性愛の問題が白熱している。1万あるルーテル教会のうち、500の教会がルーテルから離れ、自分の教団を作ったことは残念で悲しい」と述べた。さらに、「バイセクシャル問題は道徳的、宗教的問題に抵触しない。聖書の基本的メッセージは、すべての人間は神に無条件に愛されているのだから、性の傾向の違いがあるからといってそれを受け入れないというのはクリスチャンとしてどうか」と率直な胸の内を語り、「いずれは日本の教会も、この問題で頭を悩ませる時が来るだろう。聖書の基本的メッセージを研究して、分裂を避けるよう努力してほしい」と結んだ。
 続く「知性」の話題で同氏は、米大統領選に触れ、「難民が入国しないよう壁を作ろうなどというマナーも常識もない大金持ちが現在トップにいる。知性は何のために使われているのだろうか」と問い、「優れた知識を持っている若い世代は、このような大きな問題に向かって知恵のある解決を生み出そうとしているだろうか。大学が価値のある体系に立って、正しい方向に若者を導いていくのが教育者としての切なる願い」と語った。
 また「感情」について、「人生の大きな決断や、国のさまざまな政策は、知識よりも感情によって動かされていると認めなければならない」とした上で、「相手のジェスチャー、声音、話し方などから隠された調子を知ることができ、相手を慮ることができる。西洋人より日本人の方が『感情のIQ』が優れている」と指摘した。

 続く「社会性」に関しては、「聖書の教えに従ってすべての人を愛そうとしても難しい」とし、「テロを非難しながらイスラム教徒と友情を結んでいくには」との課題を提示。「例えばカリフォルニア州クレアモントでは、イスラム教、ユダヤ教、カトリック教会、メソジスト派で共同の慈善奉仕活動を行っており、過ぎ越しの食事に共にモスクで与っている。諸宗教間に平和がなければ、世界平和はない」と述べた。
 「霊性」について同氏は「真の霊性とは、単なる敬虔な気持ちではなく、この世の中にあって、見えざる現実が確かに存在していると信じること」とした上で、「神は、目には見えないが、なければ宇宙を含めすべてのものが安定を欠く引力のような概念。神は人間を含め、すべての被造物の中におられる」と述べた。
 最後に、「五つの意味を分かっていても、行動しなくては何の意味もない。パウロが『たとえ、人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、わたしは騒がしいどら、やかましいシンバル』(Ⅰコリント13・1)と言ったとおり」とし、「21世紀の神学は、すべての宗教の本質が『compassion』(思いやり)だと提示した。compassionとは、共に苦しむ深い思いやりの行為。人間性を学問的に理解しても、compassionのとおり実行しないと本当の喜びは味わえない。身体、知性、感情をかけてキリストの愛と正義を生かし、世のすべての人に対する深い思いやりの道を歩んでいこう」と締めくくった。

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