〝平和の構築は一人ひとりの役目〟 教皇ヨハネ・パウロ2世の来日35年記念会 2016年6月4日

 教皇ヨハネ・パウロ2世が1981年2月に広島で「平和アピール」を発信してから今年で35年。来日時の記録映画やシンポジウムを通して、この35年間を振り返り、未来の平和を考えようと、上智大学(東京都千代田区)がポーランド広報文化センターと共催で、「教皇ヨハネ・パウロⅡ世の平和アピールと現代世界」と題するイベントを5月11日に開催した。会場の同大国際会議場は、200人を超える参加者で満席となった。

 ポーランド・ヴァドヴィツェ出身の教皇ヨハネ・パウロ2世(本名カロル・ヴォイティワ、1920~2005)は、1978年から2005年までの26年以上の教皇在位期間に129カ国を歴訪、福音に基づく世界平和と戦争反対を呼び掛け、「空飛ぶ教皇(空飛ぶ聖座)」と呼ばれた。

 1981年に来日した際には、4日間で東京・広島・長崎を訪問。広島での「平和アピール」では、「戦争は人間のしわざです。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です」「過去をふり返ることは、将来に対する責任を担うことです。広島を考えることは、核戦争を拒否することです。広島を考えることは、平和に対しての責任をとることです」と日本語で訴えた。

 今回のイベントでは、教皇の来日のようすを撮影したドキュメンタリー映画『平和の巡礼者ヨハネ・パウロⅡ世』(1981年)が上映され、監督の千葉茂樹氏(日本映画大学特任教授)と、教皇の来日前3カ月にわたりローマで日本語ミサのアドバイスを行った石野澪子氏(聖パウロ女子修道会シスター)がトークセッションを行った=写真右上

 千葉氏は、大雪の中での撮影の苦労や、教皇の優しさに触れたエピソードなどを紹介。当時、バチカン放送局の日本語セクションで仕事をしていたという石野氏は、教皇が日本語を勉強し始めて1カ月後には、毎朝のプライベートのミサを日本語で行っていたと明かした。

 第二部の特別シンポジウムでは、ヤロスワフ・クプチャク(ヨハネ・パウロⅡ世大学教授、ドミニコ会司祭)=写真左下、小山英之(上智大学神学部神学科教授、イエズス会司祭)=写真右下の両氏が基調講演を行った。

      

 クプチャク氏は、第二次世界大戦中ドイツ占領下にあったポーランドのクラクフでヴォイティワが青年期を過ごしたことに言及。「同大戦の終結はポーランド民族、特に同国のカトリック教徒にとって解放を意味しなかった。モスクワの共産主義政権に従順なポーランドの傀儡政権は、ポーランド人の記憶、伝統、民族自立の心、特にカトリック教会に対して戦争を布告した」と語った。

 1950年代からカトリック教会を代表することになった1人がクラクフ大司教(後の枢機卿)のヴォイティワであったとし、「だからこそ、日本で平和と平和の条件について語る時のヨハネ・パウロ2世は、20世紀の全体主義の犯した犯罪の直接の目撃者、証人として自らが知り尽くしていたことについて語っていたということになる」と強調。

 そして、同教皇が指摘した恒久的平和を建設するための四つの人道的条件、「所有に対する存在の優位性」「技術に対する倫理の優位性」「物に対する人の優位性」「物質に対する精神の優位性」について解説した。

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 小山氏は、ヨハネ・パウロ2世が04年の「世界平和の日」メッセージの中で述べている「テロ攻撃の背後にある動機の、勇気ある、正確な分析」が、今日のテロに対しても重要な態度だと指摘。

 紛争と宗教の関係は、社会状況や、信仰を抱く一人ひとりの人間によっても大きく変わるとし、「宗教が戦争に関わっているということと、それが戦争の『原因』かどうかということは区別されねばならない」と主張。「一神教であろうと多神教であろうと、宗教が偏狭な愛国心と混合したり、政治的に利用されたりすることによって、多くの人間を支配する人間の欲望の道具になったとき、暴力が生まれる」と説明した。

 最後に、日本には「国際紛争を武力によって解決しない」国として積極的な役割があるとし、軍隊への支援、武器の国際共同開発や輸出を推進するのではなく、貧困や差別、人権抑圧などの構造的暴力をなくし、紛争や戦争の原因を除去することに重点を置く必要があると強調した。

 続くパネルディスカッションには、千葉、石野両氏も参加。今年7月にポーランドで開催される「世界青年の日クラクフ大会」に話が及ぶと、クラクフ在住のクプチャク氏は「ヨハネ・パウロ2世の業績全体を振り返る機会になる」と話した。小山氏は最後に、「平和の構築は、政治家や外交官や軍事司令官の仕事ではなく、わたしたち一人ひとりの役目」と結んだ。

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