学生の「内なる声」を聴く 日本キリスト教教育学会、明治学院大で大会 2016年7月16日

これまでのキリスト教教育を批判的・反省的に振り返る

 日本キリスト教教育学会(町田健一会長)の第28回学会大会が6月24~25日、明治学院大学(東京都港区)で開催された。同大学が学会大会の会場となるのは初。85人が参加した。前回の大会は、「これまでのキリスト教教育は受け手側で何が起こっているかを理解してきたか」という問題意識のもとに行われたが、今大会でもその意識が継承され、学生たちの「内なる声を聴く」ことが趣旨として掲げられた。

 大会初日は、「いま、若者たちの声に聴く」と題して、教会学校やキリスト教学校でキリスト教教育を受けてきた3人の学生を招いたフォーラムが行われた。参加したのは、明治学院大学の殿垣くるみさん、関西学院大学大学院の大野至さん、慶応大学の岡田喜一さん。渡辺祐子氏(明治学院大学教授)が司会を務めた。

(左から)渡辺氏、殿垣さん、大野さん、岡田さん

 「社会に対して応答する責任がある」との意識から、現在「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)の活動にも参加している殿垣さん。キリスト教愛真高校(島根県江津市)で初めてキリスト教に出合い、共同生活の中で自分自身の言葉を作っていくことを学んだ。それまでキリスト者と関わることがなかったため、友人たちの祈る姿にあこがれや強さを感じたという。「今まで自分は他者を批判し裁いてきた。神に応答することを意識している友人や先生たちに影響された」。

 牧師を目指す大野さんは、祖父の代からの牧師家庭に育った。出身校の敬和学園高校(新潟市北区)では、同校のキリスト教理念と「労作」教育とのつながりに疑問を感じてきた。明治学院大学に在学していた間も同様に〝Do For Others〟という同大学の理念が、ボランティア活動や平和学習にどのようにつながるのか分からなかったという。

 沖縄で米軍基地反対運動に取り組むキリスト者がいる一方、「沖縄に基地は必要だ」と言う人もあり、「キリスト教の中でもまったくコンセンサスが取れていないことにショックを受けた」。牧師になることによって、同じ疑問を抱く人たちと話し合いを進めていくことができるのでは、と語る。

 2013年には、「SEALDs」の前身である「SASPL」(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)を友人たちと結成。「SEALDs」にはキリスト教のバックグラウンドを持つメンバーが多いが、キリスト教の理念について話し合われることはほとんどない。「コンセンサスが取れていないことが大きい。教会で『キリスト者は社会のことに関わるべきではない』と批判を受けるメンバーもいる。でも、なぜ自分たちがキリスト者として活動しなければいけないのか、という話は一切しない。触れてはいけないと思っているメンバーが多い」「『キリスト者だから社会のことに関わらなければいけない』という答えだけが用意されている環境で育つと、そうではない人たちと出会った時に、その差を論理立てて説明できないことがある。自分も学びを進めている者として真摯に向き合わなければならない」と話した。

 岡田さんは牧師家庭に育ったが、キリスト教学校には通ったことがなく、最近キリスト教とは何かを考え始めた。「今まではキリスト教ではない日本人を演じていた」が、「心の中にあるのはキリスト教。どれだけ他の人たちと同じ行動をしても、最終的に『神さまはいる』とどこかで信じている部分がある」。岡田さんも沖縄に行ったことにより、社会問題についての考え方の違いに触れ、キリスト教という枠組みで行動することに疑問が深まったという。

 「これまでのキリスト教教育の中でどのようなメッセージを受け取ってきたか」との会場からの質問に対し、岡田さんは「(教会学校で)隣人愛を無意識のうちに学んでいた」、大野さんは「どの学校でも、『神を愛し、同じように隣人を愛せ』という黄金律を徹底的に教えられた。その中でも『他者への奉仕』は重要視されていた」、殿垣さんは「『あなたはあなたのままでよい。愛されている存在なのだ』ということを実感した教育だった」と振り返った。

   ◆ ◆ ◆

 大会2日目は、「キリスト教教育は何を教えてきたのか――これまでのキリスト教教育に欠けていたもの」と題するシンポジウムが行われた。これまでのキリスト教教育を批判的、反省的に振り返り、今後のあるべき姿を展望しようというもの。本田栄一氏(農村伝道神学校講師)の司会のもと、田丸修(明治学院高校副校長)、比企敦子(日本キリスト教協議会=NCC=教育部総主事)、永野茂洋(明治学院大学副学長)、原誠(同志社大学教授)の4氏が発題した。

(左から)田丸、比企、永野、原の各氏

 田丸氏は、自身もキリスト教教育を受けてきた中で、自分が愛されている存在だと知ることが個の確立のために重要だと指摘。また、キリスト教教育に欠けているものとして、キリスト教教育の持つあいまいさを挙げ、平和教育やボランティアが本当にキリスト教教育の成果なのか、どれだけキリスト教に関わりがあるのかと疑問を呈した。

 比企氏は、「教派間の多様性が学校の現場にないのではないか。他宗教への理解を促しているだろうか」と問い、修養会や宗教講演会の際に、生徒の多様な背景を考慮して、エキュメニカルなスタンスに立って講師の人選を行うことで、キリスト教に対する理解や関心が深まるのではないかと提言。人権教育が浸透していないことにも言及した。

 今大会の実行委員長である永野氏は、高度に発達した消費資本主義の中で、「ザラザラした日常」がコーティングされ、見えなくなっていると主張。「現実の問題に触れられなければキリスト教は表面的な教育しかできていないことになる」と述べた。また格差や貧困が問題になる中で、「善きサマリア人」のたとえから、日本は貧しい国にとって「追いはぎ」ではないかと指摘。歴史への責任に向き合う努力をすべきだと強調した。

 日本のプロテスタントキリスト教史が専門の原氏は、キリスト教主義学校が単独に学校として成立したのではなく、宣教師によって設立されたミッション・ステーションによって建てられたことを認識すべきだと強調。「宣教」という包括的な概念の中に伝道、教育、奉仕があったとし、教会と学校は別のものではないという自覚と認識が大切だと述べた。そして、「日本の中に欠落していたものを宣教師たちは提示し、実践し、設立し、展開していった。その意味で宣教師たちが造った学校は、教育機関であるけれども、より本質的には『奉仕』として位置付けるのが正しいのではないだろうか」と提言。キリスト教主義学校のキリスト者の構成員が減少する中で、キリスト者でない教職員がキリスト教主義の学校であることを重んじていく「教育の共同体」となることが必要だと主張した。

 次回の第29回学会大会は、来年6月23~24日、西南学院大学で開催される。

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