英・EU離脱 〝分裂ではなく和解へ〟 在英日本人司祭に聞く教会の反応 2016年7月23日

 欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う6月23日の国民投票で、離脱支持が過半数に達したイギリスでは、予想外の結果に混乱が続いている。残留を訴えてきたキャメロン英首相は辞意を表明し、後任には与党・保守党の党首に選ばれたテリーザ・メイ内相が就任する見通し。

 AFP通信によると、教皇フランシスコは26日、EU離脱決定を受け、「巨大な連合の中で機能していないものがある」とした上で、加盟国に主体性や自由をより認めることで、EUは力強さを回復する可能性があると語った。立教英国学院チャプレンとして働く日本聖公会神戸教区司祭の與賀田光嗣氏に、現地の様子と教会の動きを聞いた。

国教会は難民受け入れを要請

――現地の様子は?

 私が住むのは、ロンドンに近い英国南部ですので治安は良く安全ですが、イギリスは今、揺れています。地方在住/都市圏在住、貧困層/富裕層、低学歴/高学歴、高齢者/若年層など、EU離脱派、残留派についてさまざまなフィルターで分析がなされ、英国民間の「分裂」が現れています。単に支持政党が違うという話ではなく、連合王国の行方に関わる分裂です。

 スコットランド、ウェールズ、北アイルランドが、EU残留すなわち連合王国からの離脱を表明しています。北アイルランドの人々はアイルランドのパスポートを取得できるので、残留派市民が役所に殺到する事態も起きています。また、イベリア半島最南端の軍事通商の要衝「地中海の鍵」といわれるジブラルタルも離脱を匂わせています。

 何より首都ロンドンでEU残留派・連合王国離脱派、双方の運動が始まりました。この分裂は「欧州」全体に波及しかねません。聖公会のみならず英国の宗教指導者たちは、高度に政治的で慎重な判断を迫られています。

――現地教会の動静は?

 まず、英国国教会(英国聖公会)は、EU離脱/残留の是非に対しての声明は発表していません。しかし、選挙開票後すぐの6月24日に、インターネット上でカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーの連名による声明と、礼拝の中で使う特梼と連祷を発表しました。国民投票後、人々が分裂しないように、互いを憎まないように、共に歩むように、との声明と祈りです。類似した声明や祈りは投票前からも示されていました。

 投票の背後には、国内の経済、失業、移民、難民問題など、さまざまな問題が複雑に横たわっています。どのような結果になっても分裂ではなく和解を求めるという祈りです。

(EU離脱の是非を問う国民投票のビラ)

――難民問題が大きいですか?

 昨年秋、英国国教会は政府に対して今後5年間で、現状の2倍以上の難民を定住させるようにと要請しました。84人の英国聖公会主教はデビッド・キャメロン首相宛の書簡で、政府にシリア難民の受け入れを「最低でも5万人」に増加せよと訴えました。教会が難民に住宅および食糧を提供し、難民を迎え入れるよう人々を奨励し、難民の再定住を援助することをキャメロン首相に約束しました。

――極右運動は?

 投票直前に、残留派で難民支援をしていた女性国会議員が、離脱派の手によって殺害されました。犯人は、極右政党支持者で「Britain first」を叫んでいました。同政党のスローガンが「イギリスを取り戻す」ということには、薄ら寒いものを感じます。彼女の葬儀は国教会ブリストルの聖ペトロ教会で行われましたが、そこには宗教を問わず、イスラムの人々も集まり、その死を悼みました。

 しかし投票後、各地で移民排斥のヘイトクライムが多発しています。投票以前と比べ、57%以上もヘイトクライムが増加したとの指摘もあります。ハラル食品店への襲撃と焼き討ち事件や電車内での人種差別、たとえば黒人男性への「アフリカに帰れ」という暴言で3人の逮捕者が出ています。乗り合わせた他の市民が、被害男性を庇ったことが何よりもの救いです。

 ローマ・カトリックの多いポーランド系移民を排斥しようとするヘイトスピーチなど、枚挙に暇がありません。もちろん場所によって事情は違います。

大主教ら人種差別に非難声明

――ヘイトクライムへの教会の対応は?

 投票前6月1日、英国国教会は人種差別への非難声明を出しています。己の鬱憤を晴らすために人種差別し他者をスケープゴートに使うべきではない、英国民としての責任を持ちなさい、といった内容です。先月末29日には改めて、カンタベリー大主教ら指導者たちが、あらゆる不寛容さ、特に外国人への不寛容さに対する非難声明を明らかにしました。英国の宗教的指導者としてローマ・カトリックのウェストミンスター大司教、ユダヤ教のチーフ・ラビ、イスラムのイマームらも深まる分裂と憎悪に対する非難声明を発表しています。

 先月末27日、カンタベリー大主教は、イギリスのチーフ・ラビ、新ロンドン市長サディク・カーン(EU加盟国の首都市長として初のイスラム教徒)らと、ラマダン開けイフタール(日没後の夕食)を共にしました。ウェルビー大主教は「国民投票の結果を口実にしてヘイトを発散させるため、人々のevil willが用いられていること」に触れ、「民主主義の権利は、選挙、健全な遊説、活発な議論のためのものであり、ヘイト表現や、他者を憎悪によって攻撃する口実、分裂のために用いられるものではない」と発言しています。

 また、ロンドン西部のポーランド・カルチャーセンターにヘイトグラフティが書かれた問題を特に取り上げて「この国の未来、またこの国を再び立て直すためには、外向的で寛大で、歓待し良きことを積極的になし悪に対して強く立ち向かう新しいビジョンを持つことが絶対不可欠である」とも語りました。ロンドン西部の事件では、後に市民たちが被害者に謝意と連帯を示す花束を贈りました。ヘイトの壁が花に覆われたことは人々の記憶に新しいでしょう。

 宗教多元社会とも言える現在の英国では、各々の宗教的立場を尊重し、分裂ではなく「和解の道」を祈り求めねばなりません。和解の歩みを決して止めてはなりません。

――ありがとうございました。(聞き手 波勢邦生)

          

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