香港紙「時代論壇」編集長インタビュー 政治不信の時代こそ 2016年8月20日

 政治、経済、外交などの面で世界的にその動向が注目される中国。目覚ましい経済発展の中、キリスト教人口が爆発的に増えているとの情報も伝え聞く。本紙ではこの間、浙江省で相次ぐ十字架撤去事件や、香港での雨傘運動について報じてきた。

 今月発行の「ミニストリー」30号で、「香港/中国」のキリスト教を特集するにあたり、取材した香港の週刊紙「時代論壇」編集長・羅民威さんのインタビューを掲載する。現地のキリスト教メディアは今日の「香港/中国」をどうとらえているのだろうか。

〝意見交わせるプラットフォーム〟

――媒体の紹介をお願いします。

 香港がまだイギリスの植民地だった1987年に創刊した週刊紙です。当時、信教の自由など、教派を問わず社会的な話題について意見を交換できるプラットホームが必要だと感じていました。読者層は超教派で、主流派から福音派、ペンテコステ、ファンダメンタルな人まで、さまざまです。

――創刊から約30年間で変化はありますか?

 編集方針に大きな変化はありませんが、キリスト者がさまざまな問題をどう見ているのか、外部の人たちがより関心を持つようになりました。ですから、キリスト教徒の読者にしか分からないような言葉は極力使わず、キリスト教的な考え方を押し付けないようにも心掛けています。

 香港教会の特徴は、第二次世界大戦後に発展したという点です。1949年に共産党政権ができてから、大陸にいた宣教師がみんな引き揚げてきました。そういう背景を持つ教会の特徴は、政治的なことにあまり関わらないということです。しかし、数十年経ち、教会も政治的な問題に向き合わなければならなくなってきました。

――編集上の難しさを感じることはありますか?

 偏り過ぎてはいけないので、片方の立場を取り上げれば、もう片方も取り上げなければいけません。例えば雨傘運動の最中に、「警察のためにも祈ろう」と呼びかける文書が出回った時、その文章が警察のあるグループが書いたものだということが解明できたので、「時代論壇」のウェブサイトに載せました。当時、警察は政府寄りだと見られていたので、「『時代論壇』は政治的立場を変えたのか!」という反応も寄せられました。

 わたしたちは、「文章が本物で、事実であるなら自分たちは掲載する」と答えました。もし異なる意見があるなら、文章を書いて反応すればいい。雨傘運動のような緊張がある中で、メディアが一つのプラットホームとしての役割を担うことは大切だと思います。同時に、自分たちの設けたプラットホームが教会内に分裂をもたらしかねないという難しさはあります。

 政治に限らず、何か対立がある時に、少なくとも相手がどういう考えなのか理解していく必要があります。

――実際に教会の中ではどうでしょうか?

 最近では、同じキリスト者であっても、さまざまな考えや視点があるのだということを、ようやく意識するようになってきたと思います。同じ教会の中に雨傘運動を支持する学生や教職者がいる一方で、当然、公務員や警察もいるわけです。そういう時に顕在化するお互いの考え方が違いを良い形で処理し、意見を尊重し合うことができた教会もあれば、それがなかなかできず、信徒の一部が教会を離れたという事例も聞きました。

――具体的な成功事例はありますか?

 この間のメソジスト教会の取り組みは良い例です。論争になるような話題についてセミナーを開き、公の場で討論して、お互いを尊重した上である結論を導き出すわけです。それに同意しない反対する人たちも、それを攻撃することはない。これは、民主主義的社会の大事なテクニックだと思います。

――教会の役割は大きいですね。

 政府や政治に不信感を抱く時に、宗教が大事な要素になってくるのではないでしょうか。重要なことは、単に信徒を増やすことや献金を増やすことではなく、社会の必要に教会が応えていくことです。例えば雨傘運動の時に、袁天佑先生(香港NCC前会長)の教会は抗議する市民のために会堂を開放しました。

 わたしたち、教会とキリスト者がそういう「現場」に出ていくことで彼らの信頼を得ることもできるし、理解することもできる。すると将来、彼らの側からわたしたちを理解しに来てくれるだろうと期待しています。

〝違い踏まえ分裂を回避すべき〟

――メディアに対する統制への危惧はありますか?

 もちろんあります。中国政府の香港に対する統制というのは、あまり直接的でない方法で行われます。一応、「一国二制度」ということになっているので、香港に宗教局はありませんし、出版に関して検閲もありません。しかし、実際にはさまざまな形でコントロールをされていると感じるようになってきました。

 あるテレビ局は、インターンシップで香港の学生を採用していたけれども、今年は大陸の学生を多く採りました。そういう点だけをとっても、非常に憂慮しています。ただ、わたしたちは事実に基づいて報道するようにしているので、あまり推測だけで報じないよう注意しています。

 イエスの弟子の中でも、政治的にはさまざまな立場があったわけです。ですから、キリスト者であってものそのような違いは踏まえておかなくてはなりません。わたしたちはメディアとして、何が本当で何が嘘なのか、はっきりさせなければなりませんが、かといって報道によって一部の信徒がコミュニケーションを取れなくなるような、決裂状態になるようなことはしてはいけないと思っています。

――メディアの立場から見て、教会の課題は何だと思いますか?

 香港教会の課題は、異なる違いをどうプラスになるようくみ取れるかということです。権力を持つ人たちは、さまざまな分裂を利用して、さらなる分裂を引き起こそうとしています。わたしたちが気を付けなければならないのは、信徒の中にも当然違いはあるということ。皆異なる賜物、異なる霊的な生活があるからです。

――日本と中国との関係もそうですね。

 これはどの側面でもあり得ますね。香港の場合には、中国政府の圧力や、香港内のさまざまな利益が絡み合うという問題があります。教会にとって重要なのは、何が信仰的に議論すべきか、どこまでが共通認識でどこからが違うのかを冷静に判断することです。

――ありがとうございました。

(協力 松谷曄介)

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