戦争犠牲者の魂の平安と平和祈る 立教大で日本人作曲家によるレクイエム初演 2016年11月12日

 聖公会が教会暦として定める諸聖徒日(11月1日)と諸魂日(同2日)を前に、立教大学池袋キャンパス内の立教学院諸聖徒礼拝堂(東京都豊島区)では、同礼拝堂聖歌隊が毎年異なる作曲家のレクイエムを奉唱することが恒例となっている。10月22日の66回目となる「レクイエム奉唱会」では、既存の作曲家の曲ではなく、日本人の作曲家による新作が初めて演奏された。

 作曲したのは作曲家で同大教会音楽研究所員の坂本日菜氏。日本聖公会横浜アンデレ教会員である同氏は、2006年に日本聖公会聖歌集が改定された際に聖歌を数曲作曲している。また、同聖歌隊のためにも聖歌を作曲しており、3曲目の提供となる今作は初めての大曲。「青木瑞恵による太平洋戦争追悼詩『REQIEM』と共に」というサブタイトルがつけられた。

 坂本氏に作曲を依頼したのは、同大教授で同大教会音楽研究所所長および同聖歌隊隊長、指揮担当のスコット・ショウ氏。ショウ氏は常々日本語のレクイエムがないことを残念に思っていたという。「既成の西洋音楽ではなく、日本語のレクイエムを作ったことで、日本人の観点から死と復活が音楽を通して見えてくる」と話す。

 2014年に作曲依頼を受けた坂本氏は、太平洋戦争時にパラオのペリリュー島で24歳の若さで戦死した叔父のことを念頭に作曲した。「人生のすべてが戦争だった人たちや、戦争で亡くなったすべての人たちへの追悼の思いを込めた」。

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 レクイエムは、「入祭唱」「聖体拝領唱」などラテン語の典礼文に曲をつけたものが一般的だが、今回のレクイエムは通常の典礼文のレクイエムの歌の間に、詩の朗読が行われる構成。その詩を書いたのは同大卒業生で同聖歌隊OGでもある青木瑞恵氏(日本聖公会横浜アンデレ教会員)。作詩家である同氏は坂本氏とこれまでもペアを組んで聖歌を作っており、作品は日本聖公会聖歌集に収められている。

 戦争を体験した青木氏はレクイエム奉唱会で使われることを意識し、13年頃『太平洋戦争犠牲者への追悼詩REQIEM』を執筆し坂本氏に手渡した。これを読んだ坂本氏は「一語として聞き落とすことがあってはならない」と思い、この詩に音楽をつけて聴き流してしまうことのないよう、詩を朗読してラテン語のレクイエムで挟むという手法を提案した。「青木さんはラテン語を意識しないで詩を書いたのに、レクイエムを順番に分割して当てはめたら詩とレクイエムがぴったりあった」と驚きを語る。

 「この言葉の重みの一つひとつを明瞭に表現できる語り手による朗読を、天からの声とも言える音楽が支えることで、詩の言葉が放つ恐ろしさや、絶望、希望、神の愛を何倍にも膨らませて届けることができると思った」

        坂本氏(左)とショウ氏

 今回のレクイエム演奏にあたり青木氏は、「神から頂いた生命(いのち)の尊さと真の平和への強い願いを、再び不安定な情勢を目の当たりにしてより一層思う。同聖歌隊の卒業生として長年温めてきた『世を去る魂の平安を祈る歌』が祈りと共に献げられることに深く感謝する」とプログラムにメッセージを寄せた。

 坂本氏は「わたしたちが繰り返す過ちがキリストの犠牲と赦しによって浄化され、戦争での過ちと犠牲を思い起こし、演奏者と会衆皆で戦争犠牲者の魂の平安と平和を祈る機会にしたいと願っている」と初演の抱負を述べた。

 ショウ氏が企画協力したことについては、「新生レイクエムの誕生と演奏の実現に、太平洋戦争時には敵と味方で分かれていた米国人であるショウ先生の理解があったことは、平和の象徴として大変な説得力があり意味深いことだと思う」と胸の内を明かした。

 聖歌隊については「彼らは『礼拝ありき』という信仰の姿勢で、神に奉げる曲として練習に取り組んできた。この曲は、柱となる信仰心を持つ彼らだから完成できた。どんなに上手でも、別の合唱団だったら完成不可能だったと思う」と振り返った。

 再演の予定についてショウ氏は、「学生が卒業していってしまうので難しいが、いずれ新入生にもこの曲を受け継がせていきたい。一度きりの演奏ではもったいない」と述べ、退職するまでに再演したいと語った。

 奉唱会当日、礼拝堂は270人の観客で満席。パイプオルガンに導かれた同聖歌隊の力強い歌声を、ソプラノ、ハープ、マリンバ、トランペットの面々が彩った。詩の朗読は声優の山田栄子氏が担当した。

 19年に100周年を迎える同聖歌隊。来年4月には記念CDをリリースする予定だという。

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