〝キリスト教国〟の選んだ道は? トランプ氏当選で揺れる世界の教会 2016年11月26日

 出馬表明から1年半にも及ぶ米大統領選挙を制したのは、ドナルド・トランプ氏だった。就任決定を受けて、バチカン(ローマ教皇庁)国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿、ロシア正教会の最高指導者キリル・モスクワ総主教は9日、トランプ氏に「心からの祝意」を表した。地元の米国では、福音同盟(NAE)のリース・アンダーソン会長ら指導者たちが、全国民に、大統領選の過程と結果を尊重するよう呼び掛ける声明文を発表している。態度未決定とされていた人々の中に存在した「隠れトランプ」派まで含めると、キリスト教保守派とされる福音派の有権者の8割がトランプ氏に投票したと見られ、棄権は少なかったようだ。(CJC)

教皇 祝意に隠された警戒

 教皇フランシスコは、トランプ氏が共和党の次期米大統領候補に決まった際、「貧しい人や排除された人のことを忘れないように」とクギを刺していた。また選出直前にも、教皇は「人間、政治家について判断はしない。その行動が貧者や疎外されている人たちにもたらす苦難がどんなものか知りたいのだ」とイタリア紙「レプッブリカ」のユージニオ・スカルファリ記者に語っている。

 11月11日付の同紙によると、インタビューが行われたのは7日。教皇が心配していることは、祖国を脱出しなければならない移住者や難民を、富裕国の中の貧困者が受け入れるかという点だった。難民に仕事を奪われると恐れる人たちが、受け入れ策に反対しているとして、「豊かな国にも、貧しい国からの人たちを歓迎することを恐れる貧しい人たちがいる。私たちを分断する壁を壊さなければならない」と教皇は語った。

 カトリック信者の人気が高い教皇は、環境、移民、貧困などの問題で「民主党寄り」のメッセージを出す「リベラル派」として知られているが、信徒の動向は複雑。

 プリンストン大学などの米国を代表する著名宗教学者らが連名で「カトリックの価値観を代表していない『俗物』のトランプ氏は大統領にふさわしくない」との意見書を出したほどだが、同氏を支えたのは移民に仕事を奪われている中間層以下の白人カトリック層。民主党支持者の方がやや多い傾向のカトリックだが、トランプ氏は浮動層を切り崩し、支持者を民主党から奪ったと見られる。

 トランプ氏はこれまで選挙を一切経験したことはなく、「ワシントン政治」を米国をダメにしたものと強く非難し、政治家をやり玉に挙げてきた。

 とはいえ大統領に当選すると政権発足の準備には、オバマ現政権や議会、諸官庁の協力がなければ何一つ動かない。まず首席補佐官を頂点とするホワイトハウスのスタッフ、国務、国防両長官らの閣僚、4千人にも上る「ポリティカル・アポインティー」(政治的任命)の選任など来年1月の大統領就任式までに決めなければならない。そのうち約1千人は上院の承認が必要だ。

 とりあえずは祝意を示したものの、宗教界は今のところ次の打つ手が見つからず、暗中模索を続けるしかないと見られる。

教会の立ち位置問われる時

 フラー神学校は14日、マーク・ラバートン校長とリチャード・マウ前校長の名義で「選挙後の福音」と題する声明を発表。「福音主義」を標榜する信者らによる人種差別や、移民、女性、イスラム教徒、LGBTへの排斥行為を強く非難した。

 アメリカ改革派教会(RCA)から派遣されている日基教団協力宣教師のキスト岡崎エイブラハム、キスト岡崎さゆ里さん夫妻は、米国プロテスタント保守層の福音派が共和党を支持する理由について、中絶への態度が大きいと分析する。また、地方のクリスチャンにとっては人種問題が身近ではなく、リアリティがないという。トランプ氏自身は教会で結婚式を挙げたものの籍はなく、教会生活とも無縁であり、同じ支持層がモルモン教であったロムニー候補を「道徳意識が高い」との理由で支持していたこととの矛盾も指摘する。

 「イエスの隣人愛や自己犠牲をロールモデルとするキリスト教国の建て前が崩れてしまった。教会は今こそ原点に立ち返れと打ち出すべき。根拠もないのに不安を煽られ、経済さえよくなれば幸せになるという幻想に惑わされがちな人類共通の弱さが露見した。アメリカ国民には理想や希望を失ってほしくない。より大きな視野を持ってほしい」

 船員への宣教を担う「ザ・ミッション・トゥ・シーフェアラーズ神戸」スタッフのジェイムズ・ローズさんは、こう分析する。「わたしの周りのアメリカ人の反応を見ると、年長者は賛否をめぐっていろいろな議論をしているものの、比較的若い層では、結果をそのまま受け入れているという印象。さらに若い層では、いまだにバーニー・サンダース氏が民主党の予備選から外れてしまったことに対する不満が渦巻いている」

 2011年秋から3年余、ミズーリ州セントルイスの神学校に留学していた上野玲奈さん(日基教団土沢教会牧師)は、現地の友人らから流れてくるフェイスブックの書き込みが、嘆き、不安、怒りの入り混じった驚きに満ちていたと振り返る。説教を準備する友人たちのための祈りの言葉を載せる友人もいた。神学校のある教授は、次の日曜日、説教壇に立つ卒業生のために励ましの言葉を記載した。以下はその一部。「福音のよき知らせは変わっていない。ミッシオ・デイ(神の宣教)は変わっていない。あなたの召命は変わっていない。あなたたちには、なお、今この時にどれほど神の恵み豊かな業が明らかであるかを人々に確かに示すために、今の状況と古代のテキストを引き合わせる使命がある。神は誠実である」

 カナダのバンクーバーで学生対象の宣教(ISMC)に従事する荒木泉さんは、フランクリン・グラハムが最後までトランプ氏の支持を表明していたのが印象的だったとし、「今回の結果を受けて、カナダの教会も日本の教会も立ち位置が問われてくる」と見ている。

(写真)トランプ氏の当選を報じた「クリスチャニティ・トゥデイ」サイト

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