〝ラクして福音〟~SNS時代のツイッター宣教論 上馬キリスト教会「中の人」に聞く リスペクトしているからこそ 2016年12月25日

 「神ってる」が新語・流行語大賞に選ばれた今年、下半期にブレイクしたツイッターのお化けアカウントがある。東京・世田谷にある単立上馬キリスト教会(@kamiumach)。「使徒信条、ニカイヤ信条、アタナシウス信条に立脚」した、ごく普通の伝統的プロテスタント教会だが、その公式アカウントが発するユニークなツイート(つぶやき)がネット上で注目を集めている。先月だけでフォロワー数が4千増。このクリスマスには1万を超え今も増え続けている。その発信力の秘訣を探るため、管理者を訪ねた。

フォロワー1万超の実績 人気の秘訣は?

 2015年2月にアカウントを開設して以来、管理・運営を担っているのは教会員の2人(「まじめ担当」「ふざけ担当」)。始めたのは礼拝後の雑談がきっかけだったが、当初は何を載せればいいか分からず、他の教会アカウント同様、風景の写真や聖書の言葉、説教要約を載せたブログへのリンクなどをつぶやくだけだった。

 しかし、2人で相談しながら「教会あるある」や「教会豆知識」を始めたことに加え、「#」マークを付けるハッシュタグを利用した大喜利(特定のお題・テーマでネタをツイートし合う企画)に参加するようになり、徐々に存在感を増すようになる。

 当初、「説教要約だけでいい」「意味があるのか」という意見もあったが、牧師は「現代版の路傍伝道」と位置づけて許容してくれた。

 今年6月には、「#違法ではないが一部不適切 イエス、高須クリニック」のツイートを高須クリニックの高須克弥院長本人がリツイート。リツイートしてくれたアカウントをフォローすると、フォローバックされる(ツイートの読者になってくれる)という好循環が生まれ、11月にNHKのニュース番組にも取り上げられると、飛躍的にフォロワーが増えた。

 平均10~11万台だった月間インプレッション数(広告の表示回数)は、先月770万超え。当初、リツイート数がひとケタだった「説教要約」も、最近では20を超える。さらに、リアルな実績も生み出している。この間、毎週のようにツイッターを見て来たという新来者が続いているのだ。中には遠方からわざわざ訪ねてくる人もいるという。

 「もちろん興味本位の人とか、すでに洗礼を受けている人もいるので当教会の教勢につながるかは保証できません。たとえ9千人のフォロワーがいても、この教会に通えるのは100人以下。おそらく今後、一度も教会に行かないで一生を終える人も多い中では、聖書に興味を持ってもらうしかありません」と「まじめ担当」さん。

 30代の「まじめ担当」さんに対し、「ふざけ担当」さんは20代。早稲田大学スポーツ科学学術院でスポーツ科学を学び、サッカーのコーチとして中学生から大学生までを相手にしている分、幅広い世代の流行事情にも精通する。また、仕事上、企業のツイッターアカウントの管理業務にも携わっているため、その仕組みにも明るいことが功を奏した。

 「真面目な先生が真面目な話をしても聞いてもらえない。まずは『面白い』とか『カッコいい』という動機で心を開いてもらわなければ」と語る「ふざけ担当」さん。根底には、宗教の高いハードルを下げたい、「ダサい」「かっこ悪い」「怪しい」というイメージを払拭したいという〝2世〟としての思いもある。

 「彼(まじめ担当)は自ら教会に来るようになったクリスチャン〝1世〟なので、伝道を恥としていないのに対し、僕は〝2世〟なので伝道を恥としているんです。クラスでも友だちに教会に行っているとは言えなかった。だからこそ周りの温度に敏感で、そういう世間のハードルの高さを知っているのは逆に強みだと思います」

 イメージは「アメトーーク」や「ワイドナショー」などのバラエティ番組。芸人が好きなものを面白おかしく紹介することで、今まで興味がなかったことにも親しみがわく。難しそうなニュースの話に切り込みながらも、笑いを交えればすんなりと聞ける。同じように、身近なところにも聖書の言葉がある、教会にも実はこんなに役に立つものがあると知ってほしい。

 世間のトレンドに敏感な「ふざけ担当」さんが「ネタ」ツイートを担当。法律にも詳しい行政書士の「まじめ担当」さんは、マニアックな情報を詳細に調べて解説する役回り。ラインで日常的に連絡を取り合う2人の、「宗教っぽい」「まじめすぎる」対「チャラすぎる」「ふざけすぎ」という応酬を経て、ツイートが発信されている。どこまで「ネタ」にしていいか、どんな表現なら共感を得られるかをめぐり、散々意見を戦わせてきた。この2人のコンビネーションが、緩急を織り交ぜた絶妙なバランスを生み出している。

 聖句をつぶやく「今日の聖書」も、あくまで人生訓として受け入れられやすい箇所を厳選し、言葉選びにも細心の注意を払う。原則的に毎日新しいツイートを手動でアップし、一定のクオリティを維持する労力は並大抵ではない。「ラクして福音を伝える」のがモットーだというが、実際の努力は「ハンパない」はずだ。

日常的に連絡を取り合い、タイミングを見計らって発信

 ツイートの反応を見ながらマーケティングをするうちに、暗黙のルールも生まれた。ツイートの間隔は1時間以上空ける。時間帯も昼休み直後と、仕事終わりの5~6時、そしてテレビのゴールデンタイムが最適。そして何より、笑いはねらうが「神さまを伝えるため」という軸は決して譲らない。リスペクトしているからこそ、いじる。

 アナログ重視の傾向もあってか、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用に二の足を踏む教会もいまだに多い。とりわけツイッターは匿名アカウントが多いため、一歩間違えば炎上の危険性とも隣り合わせ。しかし、このアカウントの愛され感はまさに「神」級。それは、フォロワーからのこんな反応からも一目瞭然だ。

 「面白くて押しつけがましくなくて好きです」「よそを否定せずご自分の推しだけ楽しく伝える姿勢も好きです」「良い意味で教会へのハードルを下げていると思います。上から目線でのツイートではないので親しみが持てます」「堅苦しくなりがちな宗教の話題を時代に合わせて分かりやすくかつ、明るく取り上げることに大きな意味があると思います。……クリスチャンではありませんが応援しています」

 「ふざけ担当」さんは、「サッカーも上達の近道は好きにさせること。好きになりさえすれば、選手たちは勝手に練習する。そういう良いスパイラルを作るのが、コーチングをする(能力を引き出す)指導者としての役割」と語る。

 キリスト教主義の学校でも、強制される礼拝は苦痛でしかない。どう内発的な動機付けを起こさせるかが肝心。それは、教会の宣教にも通じる。「ふざけ担当」さんのもとには、しばらく教会に来ていないという高校生からも、「(上馬キリスト教会の)ツイッターやばい。まじリスペクトっす」と連絡が来る。

 「教会もそのスタンスを持っていなければ、この日本でキリスト教を広げていくのは無理です。面白いよ、動機は何でもいいよ、いつでも誰でもおいで、来てくれたら助けるよ、神さまはいつも門を開いているよというメッセージを発信できているか。『毎週来なさい』『真面目に聞きなさい』『寝てはダメ』と言われたら人は来ません。本質さえとらえられれば、教会に来ない時期があってもいい。このアカウントが、それぞれに与えられた神さまのタイミングの一助になれば嬉しいです」

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