〝『沈黙』で人間の悲しみ描いた〟 遠藤に師事した作家が町田市で講演 2017年4月1日

 マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙―サイレンス―』が話題となる中、原作者である遠藤周作に師事した作家、加藤宗哉氏=写真=による講演会「今、読み直す『沈黙』」が町田市民文学館ことばらんど(東京都町田市)で開催された(同館主催)。約80人が参加した。

 加藤氏は今回の映画化について、「晩年の遠藤は二つのことを後悔していた。一つは『沈黙』というタイトルをつけたことで、この作品が神の沈黙について書かれたものだと思われてしまったこと。もう一つは『切支丹屋敷役人日記』を読まれにくい形で書いたことにより、(主人公の宣教師)ロドリゴが信仰を捨てていなかったことが伝わらなかったこと。スコセッシ監督は、この二つを見事にすくい上げた」と称賛した。

 また、『沈黙』が陰惨で重く、難しい本であるにもかかわらず、多くの読者を獲得した理由をさまざまな視点から分析。まず西洋の遠藤研究者が『沈黙』を「西洋の文化から開放されたイエス像を教会に提供し、その力なきイエスの力のなさが強みとなっている」と評していることを説明した上で、遠藤の描く「力なきイエスが弱き者に寄り添う姿」が、当時の読者、特に学生運動に敗れた者の心に響いたのではないかと述べた。

 さらに、遠藤は強い思いを持って「人間の悲しみ」を書こうとしていたと説明し、『沈黙』の中でロドリゴやキチジローをはじめとした登場人物の悲しみを描くことで、多くの読者の共感を得たと語った。

 その後、遠藤のキリスト教観や人柄にまつわるエピソードを紹介。その中で遠藤と母親との関係に触れ、苦しみの中にあった母の姿が『沈黙』で初めてイエスと重なり、それ以後の作品ではイエスの姿が優しい「母なるイエス」として描かれるようになったことを指摘した。

 後半には過去に録音された遠藤のインタビューや、俳優の高橋昌也氏による『沈黙』の朗読を紹介し、「人の心を動かす『悲しさ』というものを散りばめた作品が、『沈黙』という小説である」と結んだ。

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