「保育」の使命続けよう カトリックの幼稚園からルーテルの保育園に 2017年4月8日

 東京都世田谷区のカトリック赤堤教会に隣接する場所に今年4月、57人の園児を迎え、「マリア保育園」(赤堤3‐20‐4)が誕生した。同所では、カナダのケベック外国宣教会が1951年から「ファチマのマリア幼稚園」を運営してきたが、昨年3月に閉園。京都の社会福祉法人「京都ルーテル会」が保育園として新たにスタートさせた。日本福音ルーテル教会の牧師が園長を務め、赤堤教会の司祭がチャプレンとして協力するなど、教派を超えた取り組みが始まった。

髙塚郁男牧師「一人ひとりの魂を生かす」

 「ファチマのマリア幼稚園」は65年の歴史があり、地元でも人気のある幼稚園だった。しかし園長のモーリス・ラベ神父が高齢のためカナダに帰国することになり、後継者不足で運営の継続が困難になったため閉園。地域の住民からは存続を望む声も多かったという。

 京都ルーテル会理事長の髙塚郁男氏(日本福音ルーテル教会牧師=写真)がその話を保育関係者から耳にしたのは昨年1月。その時は気に留めていなかったというが、翌月脳梗塞で入院した横浜の病院で、カトリック信徒の看護師から偶然再びその話を聞いた。

 京都ルーテル会は、京都市北区で「のぞみ保育園」を運営する社会福祉法人。2009年に髙塚氏が法人を設立した。同氏は日本ルーテル神学校を卒業後、名古屋や東京などで牧会し、米国福音ルーテル教会(ELCA)の牧師として17年半カリフォルニアに在住。帰国後、06年から14年に引退するまで「のぞみ保育園」の園長とともに、隣接する日本福音ルーテル賀茂川教会の牧師を務めてきた。もともと世田谷区生まれで、3年前から同区で保育関係の仕事に携わっていた。

 入院中に「マリア幼稚園」閉園の話を聞いた髙塚氏は、「世田谷」「キリスト教」というキーワードから、幼稚園を保育園にできないかと考えた。ベッドに横になりながら、「お前にはまだミッションがある」という声を聞いたような気がしたという。

 退院後すぐに幼稚園に電話し、司祭らと協議を重ねた。今年4月の保育園開園に向けて、土地の購入から建物の改装まで1年という短期間で進めた。

 「カトリックとプロテスタント、同じ精神を持つ人が一緒にやることに意味がある」と語る髙塚氏。赤堤教会主任司祭のジャン・ガブリ神父を保育園のチャプレンに迎え、園長の髙塚氏は同教会のミサに足を運ぶ。保育園の名前に「マリア」を残し、園の正面には聖母子のモザイク画、入り口には聖家族の彫刻を配した。いずれも幼稚園にあったもので、できるだけ幼稚園の姿を残そうとしたという。職員の中には同園を卒園した人や、卒園児の母親もいる。カトリックやルーテルの信徒などキリスト者の割合も多い。

J・ガブリ神父「子どもに施設残せれば」

 ガブリ神父=写真=は幼稚園の閉園について、「65年間地域に親しまれてきた幼稚園を将来的に子どもたちのために残せれば、という考えがあった」と話す。「今、日本社会に必要なのは保育園。特に世田谷区は毎年1千人ほどの待機児童がいる。できれば施設を残し、(保育の)使命を続けたいと思っていた」

 しかしその願いがかなわず、不動産会社に売却しようとしていたところへ、タイミングよく髙塚氏から保育園にしたいという話があった。「苦しみを喜びに変えてくださった神さまに感謝したい」と語るガブリ神父は4月から保育園のチャプレンとして子どもたちに話をする。それがルーテル式の礼拝の中であっても「問題はない」と言う。

 カトリックの施設を他教派の団体に受け渡すことは珍しいことだと言うが、「今までカトリックは自分たちの施設を運営するだけの人数がいたが、これからは(同様のケースが)出てくる可能性がある」と予想する。

 髙塚氏は、「地方の教会では人が集まらなくなると、教会を売ってしまうことがあるが、それならば小さくても保育園にした方がよい。それをやらないのは教会の大きな罪だ」と語る。

 髙塚氏はキリスト教保育の根拠として、マタイ福音書19章13~15節を挙げる。イエスが弟子たちに対し、子どもたちが来ることを妨げてはならないと叱る場面だ。「これは今の保育の姿勢に近い。かつては子どもを『預ける』という考え方で、保育園も『おもりをしていればよい』という感覚があった。今の保育の中心は、一人ひとりの子どもを大切にすることにあり、イエスの精神とマッチしている」

 「例えば子どもが食事を嫌がった時に、無理に食べさせるのではなく、なぜ食べないのか、心の内側を理解することが大事。保育士は子どもの心理を知るプロでなければならない。子どもは保育士の影響を強く受けている。保育士の扱い方によっては子どもが変わってしまう。それだけ保育士の仕事は責任が重い」

 髙塚氏はこれまで、京都市会議員との懇談会で保育士の給与引き上げを要請してきた。「人間にとって一番大切なものは就学前に培われる。0~5歳児を預かる保育士の働きは非常に重要であり、どんな職種よりも給与を引き上げてほしい」と訴える。

 3月18日に行われた同園の「竣工感謝・職員入園式」の奨励でも、髙塚氏は38人の職員を前に保育園の重要性を強調した。「子どもは皆生まれた時から違う。違っていながら神さまから与えられたものを持って生きている。それをわたしたちはこれから担っていく。大変な仕事だが楽しみがある。喜びがある。一人ひとりの魂を生かす思いで保育をしていきたい」

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