〝怒れるマグマ〟タノヴィッチ監督作連続公開 『汚れたミルク』『サラエヴォの銃声』 2017年4月8日

 並みいる社会派監督の中でも、ひときわ特異な存在のダニス・タノヴィッチ。1969年生まれの彼は、ボスニア紛争により学業中断を余儀なくされる。その後、カメラマンとして従軍した経験が、初監督作『ノー・マンズ・ランド』につながった。敵同士の兵士が同じ地雷の上で身動きがとれなくなる状況を描いた同作は、各地の映画祭を席巻した。

 そのタノヴィッチきっての問題作および最新作がこの春、相次いで日本で公開されている。『汚れたミルク/あるセールスマンの告発』の舞台はパキスタン。医療機関を専門とするセールスマンが世界最大の食品企業への転職に成功するが、自社製品である粉ミルクの強引な流通から乳幼児死亡が多発していることを知る。この惨状を前に内部告発を図るが、医師や軍人らを敵に回す窮地へ陥ってしまう。

 誰もが知る「世界最大の食品企業」の名は、冒頭で一瞬言及されるも本編では伏せられる。代わりに、伏せずには映画化できない事情が描かれる。

 2014年作の本作、実は一般映画館での通常公開は日本が世界初。著名な俳優陣を擁しながら、多くの国で未公開であることそのものが、本作の価値を逆に証す。あらゆる手段をとる多国籍企業による市場制圧力の凄まじさと、個人の相対的な無力、それでも怯まぬ主人公の気骨が描かれる。

 最新作『サラエヴォの銃声』でタノヴィッチは、ボスニア現代史を一軒のホテル内部へと結晶させる。サラエヴォ事件100周年の式典当日、そのホテルではストや暴力、TV収録から謎の監視まであらゆる事態が同時進行する。

 NATO空爆へと至るボスニア紛争の背景に、広告代理店によるメディア操作があったことはよく知られている。傲然とのさばる社会悪や社会矛盾に対する怒りが、マグマの奔流のごとき膨大な熱量を孕みつつタノヴィッチを映画製作へと駆り立てる。(ライター 藤本徹)

©Cinemorphic, Sikhya Entertainment & ASAP Films 2014

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