〝「片隅」へのまなざしを評価〟 カトリック映画賞に『この世界の片隅に』 2017年6月10日

 シグニス・ジャパン(カトリックメディア協議会、土屋至会長)主催による第41回カトリック映画賞・授賞式&上映会が5月20日、なかのZEROホール(東京都中野区)で開催された。同賞は1976年以来、毎年1回、カトリックの精神に合致する普遍的なテーマを描いた作品の監督に贈られてきた。

 今回選ばれたのは、こうの史代による漫画をアニメ化した片渕須直監督の『この世界の片隅に』。戦時下の広島・呉に嫁いだ主人公すずと、彼女を取り巻く人々の日常を丁寧に描いた同作は、クラウドファンディングで資金を募り、6年がかりで完成にこぎつけたもので、昨年11月の公開以来、口コミで評判が広まり、上映館が拡大したことでも話題となった。

 シグニス・ジャパン顧問司祭の晴佐久昌英氏(カトリック浅草教会・上野教会主任司祭)は授賞理由として、「片隅の人生に秘められた価値を信じ、片隅の涙に共感する観客の心を信じた」点を挙げ、「分断と排除の声が高まる、今の時代に最も必要なことは、この世界の片隅をまっすぐに、敬意をもって見つめること」とコメントした。

 上映会後には、晴佐久氏と片淵監督との対談が行われ、同作に込めた思いや制作の経緯などが披露された=写真。自身もカトリック教会付属の幼稚園に通っていたという片淵監督。同作の冒頭に賛美歌が流れるクリスマスの賑わいを挿入した理由について、日本には戦前からクリスマスの習慣が浸透しており、そうした「普通の生活」が戦争によって奪われ、「普通の人々」に罪の意識を植え付けられたことを印象づけたかったと解説した。また、エンディングで流れる歌詞に込めたメッセージとして、偶然の出会いによって育まれる「どこにでも宿る愛」の大切さを強調した。

 1千人を超える来場者の多くは、普段アニメ作品を観ることも少なく、本作を観たのも今回が初めてという高齢の信徒だったが、監督の情熱と作品の完成度の高さに惜しまない拍手を贈っていた。

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