【東アジアのリアル】 返還20周年を迎えた香港の教会と社会 倉田明子 2017年8月1日

 今年の7月1日、香港は中国返還から20周年を迎えた。記念式典出席のため習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が香港を訪れ、祝賀ムードが演出される一方で、香港の先行きを憂う市民によるデモも行われた。ニュースなどで香港のことを見聞きした方も多かったのではないかと思う。

 そこで今回は、「返還から20年を経た香港の教会」と題する文章を紹介したい。香港のプロテスタント教会の統計調査を定期的に実施している「香港教会更新運動」*1 の機関誌『使命与領導』最新号(2017年7月)に掲載されたもので、書き手は同団体の総幹事胡志偉(こ・しい)牧師である。
 以下、まずその要点をまとめてみる。


 返還直前の1994年と直近の2014年の統計調査を比較すると、この20年で香港の教会数は約22%増加し、信徒数も約27%増加した。教会の財政力や人的資源、また伝道や社会活動においても、返還前より向上している。しかし香港社会の急激な変化と中国政府からの多方面への干渉のもとで、教会のリーダーの多くは時勢への憂慮や神学的立場を理由に安全と保身を求め、教会内部の発展だけを重んじるようになった。かつて香港の教会の多くは社会や政治の諸問題に対して一致して行動してきたが、今や協力は難しい。

 一方、中産階級を主な信徒層とする教会の多くは「宗教消費主義」を肯定してきた。信徒にとってより便利な「宗教的サービス」(日曜礼拝の複数回実施や土曜礼拝の実施など)を提供することが重要視され、礼拝出席者が500人を超える教会も増加している。大規模教会では信徒の必要に応える多様なケアが提供されているが、こうした教会文化は自立できない信徒たちを生んでもいる。教会は中産階級の社交場と化し、低所得者には入りにくい場所となっている。若い世代が教会のリーダー層に入ることができず、会衆の高齢化も懸念される。


 ここで指摘されている香港の教会の「サービス」の充実ぶりや大規模化は、筆者が訪問したことのある教会でも感じることである。ただ、こうした問題に加え、キリスト教と政治や社会の関わりにも言及されている点が香港の今を反映している。

 香港社会では2014年の雨傘運動*2 以降、「親中国派」と民主派の分断が顕在化した。キリスト教界においても、一つの教派や教会の中に双方の立場の聖職者や信徒がいることも珍しくない。こうした中、民主派のキリスト教団体は6月30日の深夜、屋外で祈祷会を開き、返還20周年を振り返る分かち合いの時を持っていた。


6月30日に開かれた「20回目の6.30祈祷会」の様子(筆者撮影)

 一方、7月9日には聖公会の大聖堂で「香港の繁栄」や「成功」を感謝する礼拝も行われ、カトリックや仏教、イスラームなどの各宗教界の代表や林鄭月娥(りんてい・げつが)新行政長官(本人はカトリック信徒)も参列した。このように政治的分断は教会にも現れているが、多様な声を上げられること自体が、中国大陸にはない香港の自由さの表れでもある。これからも香港の教会は、社会との関わりを自らに問い続けていくだろう。

*1 香港の返還が現実味を帯びた1980年代に、返還に伴う変化に積極的に対応することを目的として設立されたプロテスタント系の民間団体。5年に一度、独自の教会統計調査を行っている。『使命与領導』はhttps://issuu.com/hkcrm/docsで閲覧可。

*2 2014年9月末から79日間にわたり、民主的な選挙の実施を求める若者らが道路を占拠して政府に抗議した運動。参加者が警察による催涙スプレーや催涙弾を傘で防御した姿から名づけられた。

倉田明子
 くらた・あきこ 1976年、埼玉生まれ。東京外国語大学総合国際学研究院准教授。東京大学教養学部教養学科卒、同大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了、博士(学術)。学生時代に北京で1年、香港で3年を過ごす。愛猫家。専門は中国近代史(太平天国史、プロテスタント史、香港・華南地域研究)。

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