【宗教リテラシー向上委員会】 ステレオタイプからの脱却を ナセル永野 2017年8月1日

 ここ数年、イスラムへの関心が急速に高まっている。書籍が大量に出版され、テレビでも特集番組が放送されるようになった。嬉しいことに講演会に呼ばれる機会も多くなった。

 講演会では「イスラムを勉強してきました」という人から「1日5回も礼拝をしなきゃいけないってたいへんですよね?」「1カ月も断食して体は大丈夫なんですか?」という質問が矢継ぎ早にされることも少なくない。最近では「調味料に豚成分が少しでも入ってたらダメなんですよね?」「いつも何を食べているんですか?」という質問が〝ハラール/ハラーム〟という単語と共に登場することも多い。わたしが平然と「さすがに調味料の成分までは気にしないですよ!」と答えると〝不真面目な ムスリム〟と映るようで大半の人は怪訝な表情に変わる。

 わたしの食事のルールは……

①豚肉(ハム、ベーコンなど)は食べない。
②豚成分が明記されているものは食べない。
③それ以外については気にしない。

 当然ながら、この基準はコーランに則ったものだ。確かにコーランには「あなたがたに、(食べることを)禁じられるものは、死肉、血、豚肉、およびアッラー以外(の名)で供えられたものである」(2:173)と書かれている。 しかし、その直後に「だが故意に違反せず、また法を越えず必要に迫られた場合は罪にはならない」(同)とも書かれているのだ。

 国民の大半がムスリムという環境であれば、必然的に成分段階まで配慮した食べ物を入手することも容易だ。しかし、日本のムスリム人口は 約10万人、人口比にすると0.01%以下である。このような環境で成分にまで気を使うと食べられるものが非常に限定され、食事をすることが苦痛になってしまうくらいだ。だからわたしは成分については気にしないことにした。事実、与えられた環境で、できる限りの努力をすれば良いというメッセージはコーランに何度も登場する。

 「具体的にどこまで許されているんですか?」という疑問をお持ちの方も多いと思うが……わたしには分からない。コーランに「あなたがたの口をついて出る偽りで、『これは合法(ハラール)だ、またこれは禁忌(ハラーム)です』と言ってはならない」(16:116)と書かれている ように、行為の是非を判断することができるのは神様だけだ。人間が判断を下すことは許されない。

 さらに言及するならば、イスラムでは「合法と違法」「正解と不正解」のような二元論ではなく「できないときは……」「無理なら……」という代替案が何通りも準備されている。 「1日5回も礼拝できないから、まとめて!」「断食期間中だけど、体調が悪いから今日は食べる!」といった対処法はコーランにも明記されている。

 どうもイスラムを理解しようと興味を持って調べた人ほどステレオタイプが強化され、〝戒律の厳しい宗教〟というイメージが増幅されているような気がしてならない。しかし、一方でわたしもさまざまなステレオタイプから抜け出せていないのが現状だろう。残念ながら一般的な 書籍やメディアには限界があるのだ。

 だからこそ、ステレオタイプを駆逐すべく、執筆者各氏と共に堅固な高壁で護られた「宗教」の世界へ本音で挑んでいきたい!

ナセル永野(日本人ムスリム)
 なせる・ながの 1984年、千葉県生まれ。大学・大学院とイスラム研究を行 い2008年にイスラムへ入信。超宗教コミュニティラジオ「ピカステ」(http://pika. st) 、 宗教ワークショップグループ「WORKSHOP AID」(https://www. facebook.com/workshopaid)などの活動をとおして積極的に宗教間対話を行っ ている。

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