【宗教リテラシー向上委員会】 現実を直視する覚悟を ナセル永野 2017年9月21日

 ロヒンギャという民族を知っていますか? 現在、ロヒンギャのジェノサイド(民族浄化・大量虐殺)が行われていることを知っていますか? ロヒンギャはミャンマーで暮らしているイスラムを信仰する少数民族で、人口は約80万人と推計されています。

 1962年に誕生した軍事政権は仏教徒の国を作るためにイスラムを信仰するロヒンギャの自由を剥奪する政策を進めました。そして、1982年に制定された国籍法によりロヒンギャは無国籍民となります。市民権を失ったことで劣悪な環境下での生活が強いられたロヒンギャは、「世界で最も迫害された民族」と呼ばれるようになりました。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の調査では2012年からの5年間だけでも、ミャンマーから逃れたロヒンギャは27万人以上と推計されています。そして現在、ロヒンギャへの迫害が活発化し、難民の数が急増しているのです。

 つい先日、わたしは仏教の某宗派でイスラムについての講義を行いました。その際に「ムスリムのテロ行為についてどう思いますか?」という質問を受けました。わたしが「仏教徒のテロ行為についてどう思いますか?」と同じ質問を投げかけてみると、「仏教徒はテロなんてしません!」という答えが返ってきました。おそらく、会場にいた大半の僧侶が似たような意見だったでしょう。

 しかし、ロヒンギャの迫害を先導しているのはアシン・ウィラトゥという僧侶です。ウィラトゥは「仏教徒テロリスト」として、2013年にはタイムズ誌の表紙を飾った人物でもあります。マバタという仏教徒組織を率いて、他宗教を攻撃する姿勢から「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」とも呼ばれています。

 「ムスリムは妻を4人もめとって、どんどん子どもを産ませ、ミャンマーをイスラム化しようとしている」「仏教徒の女性を騙して結婚し、イスラム教に改宗させて仏教を破壊しようとしている」といった説法を繰り返し、SNSなどを通して多くの仏教徒たちを扇動してきました。

 この事実を伝えると、会場にいた全員が「信じられない……」という表情に変わりました。わたしのFacebookに流れてくる、僧侶が子供を殴打している写真、僧侶が家を焼き払う写真……「加害者としての仏教徒」「被害者としてのムスリム」の姿を見せると、会場は非常に重い空気に包まれてしまいました。

 もちろん、わたしは「仏教徒はテロリストだ」と非難する気はありません。しかし、どの宗教でも凶暴性を内在しており、簡単に残虐行為へと発展する危険性を常にはらんでいることを改めて確認しなくてはならないでしょう。

 残念ながら現在は「イスラム=テロ」というイメージが強いことは承知していますし、テロ行為に走るムスリムがいるのも事実です。IS事件などで犯人が「異教徒は皆殺しだ!」と主張していることは多くの人が知っています。しかし、一方でイラク掃討作戦の米軍指揮官であったウィリアム・ボイキンが、「キリストだけが正しい神だ! 中東問題の解決にはすべての人間をキリスト教へ改宗させるべきだ!」と主張していたことを知っている人は非常に少ないのです……。

 今年は宗教改革500年という節目の年です。この機会に、これまで目を背けてきた自分の宗教が抱える凶暴性、危険性といった「負の部分」を直視し、世界の現実を再確認してみる覚悟が必要ではないでしょうか?

*現在、ロヒンギャをめぐる状況は日々変化しています。この記事をきっかけに「世界で最も迫害された民族」と言われるロヒンギャ問題に興味を持っていただければ幸いです。

ナセル永野(日本人ムスリム)
 なせる・ながの 1984年、千葉県生まれ。大学・大学院とイスラム研究を行 い2008年にイスラムへ入信。超宗教コミュニティラジオ「ピカステ」(http://pika. st) 、 宗教ワークショップグループ「WORKSHOP AID」(https://www. facebook.com/workshopaid)などの活動をとおして積極的に宗教間対話を行っ ている。

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