「人文書」の可能性まだある 著者、編集者、書店、読者――「業界」の垣根越えて 2017年10月1日

「本が売れない」「活字離れ」と言われる時代に、キリスト教書を含む人文書の魅力を伝えようと果敢に挑戦を続ける人々がいる。キリスト教書を専門に扱ってきた日本キリスト教書販売 (日キ販)、 財団法人キリスト教文書センターが50周年を迎えたこの夏、著者、編集者、書店、読者という異なる立場の「関係者」が一堂に会して「人文書」の可能性を探った。それは、教会の外と中、カトリックとプロテスタントなど、あらゆる「垣根」を越えるための新たな挑戦の一歩でもあった。

売れる本には理由がある!?
一般読者にも「知りたい」「癒されたい」ニーズ

 主催したのは、教文館、新教出版社などキリスト教書を出版してきた版元を含め、専門書店、取次(日キ販)が加盟するキリスト教出版販売協会。毎年夏に開いてきた夏期例会が60回目を迎えたのを機に、初めて一般公開による催しを企画した。その背景には、この間、キリスト教出版界が直面してきた閉塞状況を打開しようと、一般書店の人文書担当者との情報交換会を続けてきた積み重ねがある。

 9月5日、カトリック麹町教会(東京都千代田区)ヨセフホールで開催されたトークライブ「魅せます!本づくりの舞台裏――意外に知らない『人文書』の世界」には、関係者を含め予想を上回る約180人が来場し、場内が熱気に包まれた。本紙編集長の松谷信司による司会のもと、大嶋重徳(キリスト者学生会=KGK=総主事)、片柳弘史(カトリック・イエズス会司祭)、小林望(新教出版社社長)、三辺直太(新潮社出版部新潮選書編集部) 、喜田浩資(ジュンク堂書店池袋本店副店長)の各氏=写真左から=が登壇。

 大嶋、片柳の両氏はプロテスタント、カトリックそれぞれの市場で「売れ筋」として注目されている著者。そこに、長く神学書の編集に携わってきた小林氏と、『反知性主義』(森本あんり)、『仏教思想のゼロポイント』(魚川祐司)、『キリスト教は役に立つか』(来住英俊)などのヒット作を生み出してきた三辺氏、さらに宗教書を含む人文書全体の動向に詳しい喜田氏が加わるという陣容となった。

 まずは最近売れている人文書の動向や、昨年の「これだけは読んでおきたいキリスト教書100選」関連フェアで売れた本について、ジュンク堂の統計から紹介。喜田氏は「書店が棚に置きたいと思える著者」として、佐藤優、架神恭介、森本あんりなどの名を挙げた。『プロテスタンティズム』(深井智朗)は、人文書ではなく新書コーナーに置かれたこともあり、よく売れたという。

 会場には『キリスト教は役に立つか』の著者である来住氏や、片柳氏と共にマザー・テレサ関連書などを世に送り出してきたPHP研究所の後藤淳一氏も駆け付けて発言した。人文書の中でも歴史、教養、スピリチュアル系の本が売れていることから、「変に宗教色を隠さず、直球ストレートの方が案外『知りたい』『癒されたい』という信者以外のニーズに合致する」との認識が共有された。

 また、会場からの質問なども交えつつ「売れる人文書の条件」「編集者の役割」「本づくりにあたって心掛けていること」などについて意見を交わした。

 良書の条件として大嶋氏は、「物の見方・考え方を変えて、これまでとは違う扉を開けてくれる本」を挙げ、学生時代に読んだサマセット・モームの『雨』が、自身にとってはまさにそんな本だったと紹介した。

会場で関連書を手に取る参加者

 「売れる本が良書とは限らない」との通説に異論を唱えた片柳氏は、「売れる本にはやっぱり理由がある。本が売れなくなったのか、売れる本を作る企画力がなくなったのかは問われるべき。編集者には、(粗製乱造ではなく)時間をかけて丁寧に本づくりをしてほしい」と呼び掛けた。
 催しの模様はYoutubeでも視聴できる(http://bit.ly/2hEOuwC)。

  翌週の11日には、クリスチャン新聞創刊50周年を記念するシンポジウム「クリスチャンメディアに今求められるもの」が、お茶の水クリスチャンセンター(東京都千代田区)で開かれた。

 高橋昌彦氏(クリスチャン新聞編集長)の司会で、今度は松谷、大嶋、朝岡勝(日本同盟基督教団徳丸町キリスト教会牧師)、郡山千里(世界キリス ト教情報主宰)の各氏が登壇。牧師、青年、キリスト教メディアなどの立場から議論を交わし、業界内の「垣根」も越えた協力関係の必要性などについて語り合った。

 

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