【置かれた場所は途上国】 ネパール ■中■  人としての豊かさを感じる時 加藤奈保美 2017年11月21日

 ネパールは小さな国なので、山肌を削って作られている道路だらけだ。わたしが担当している支援地へ行くには、片側は断崖絶壁の山道をウネウネガタガタと進むことになる。そこで故障した車や土砂崩れの後をなおす工事車両などに遭遇すれば、車線をふさぎ立ち往生。この繰り返しで遅々として先へ進まない。さらに、コミュニティの村に入ればジープに乗り換えその先は徒歩、と移動手段も限られてくる。

 ジープで川を渡るワイルドさや、ちらほら顔をのぞかせるヒマラヤ山脈を仰ぎながらの散策は、身体や気持ちが元気ならポジティブに捉えることもできるのだが、この旅路には相当な覚悟が必要だ。

 ある朝、薪を集めた帰りに大きな木の周りに腰かけて休憩する村の女性たちと、何枚着ているかを競った。当然わたしは圧倒的な勝者となったが(きっとわたしを軟弱だと内心思いつつも)、まったく寒くないわよ、と穏やかに微笑む彼女らがとてもたくましく思えた。

 訪れた小学校では、子どもたちに毎日顔を洗うかと質問すると、答えは「イエス!」。では体はどうかと聞くと、多くの子どもが恥ずかしそうに1週間に1度しか洗わないと答えてくれた。かく言うわたしも村に寝泊まりしている間は、歯磨き以外ウェットティッシュに頼るのみで、衛生教育がどうとか、どの口が言えようかという気にもなった。

 生計を頼る農業は山岳の地形ゆえにどうしても零細になるし、農閑期にはインドへの出稼ぎに頼らざるを得ないため、男手は村から消える。女性にかかる負担は圧倒的に大きく、炊事洗濯、水汲み、薪ひろい、そし て子どもと家畜の世話など力仕事から水仕事まで一手に担う。それなのに不思議と笑顔を絶やさない。日本も「おしん」の時代はこんなだったのだろうな、と想像したりする。手や額に労苦が刻まれたやや貫禄のある女性が実は23歳だと知ったときにはかなり派手に驚いた。

 なぜこのような厳しい環境に人が身を置き続けるのだろうと正直思わないこともないが、実際にその地に足を運ぶと、そこには人の営みが受け継がれつつ、しっかりと根付いていることを改めて確認させられる。ここで育つ子どもたちも活き活きと日常を生きている。そのことは、少しはにかんだ人懐っこい笑顔からよく分かる。

 アジアでもっとも貧しいと言われるネパールだが、厳しい自然の中で生きるたくましさと穏やかな微笑に、「貧困」を測る指標には表れない「人としての豊かさ」がこの国の人々にはあるのかもしれないなと思わされている。

かとう・なおみ
 神奈川県生まれ。早稲田大学、同大学院理工学研究科にて建築を専攻。在学中に阪神・淡路大震災でボランティアを経験したことから、防災や被災地支援がライフワークに。卒業後は建設コンサルタント会社に勤務。自然災害を中心とした国内外のインフラ事業に従事する。2008年6月、ワールド・ビジョン・ジャパンに入団。サイクロン後のミャンマー、大地震後のハイチで復興支援に取り組む。東日本大震災後は、一関事務所の責任者として岩手県に駐在した。2014年4月から、アフリカのスポンサーシップ事業を担当、2017年1月からネパールに駐在中。

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