聖書観を源泉にした作家・小川国夫 没後10年を前に講演会 2017年12月1日

 自らの文学の源に聖書を見て、生涯その創作に取り組んだカトリック信徒の作家、小川国夫(1927~2008)の没後10年を来年に控え、小川に関する著書を多く出版する勝呂奏(すぐろ・すすむ)氏(桜美林大学教授)=写真=が11月20日、東京大学YMCA(東京都文京区)で行われた午餐会で、「小川国夫――その文学とキリスト教」と題して講演。約30人が参加した(東京YMCA主催)。

 勝呂氏は小川と信仰について、小川が旧制中学の時、海軍の神風特攻隊に志願した2学年上の友人に「僕はお国のために死ぬが、君はよく勉強してください」と言われたと紹介。結核を患い2年進級が遅れた小川には友人の言葉が重く響き、命について考え、カトリック教会で神父から聖書を学び、19歳の時に受洗したと述べた。

 小川は、同世代の遠藤周作ら「第三の新人」ではなく、その後のグループ「内向の世代」に括られると紹介。その違いは戦中に青年期だったか、少年期だったかで分けられるという。

 主なテーマについて、イエス・キリストと思しき人物が死刑に遭う初期作品『枯木』(『アポロンの島』所収、青銅時代社)では、「『生の木』でさえこうされるのなら、『枯木』はいったいどうなるのだろうか」(ルカ23:31)について書いたと解説。他には隣人愛や、不在を描くことで神の存在を描こうとした作品などがあると紹介した。

 晩年は「汝の敵を殺すなかれ」をテーマとし、「何があっても殺してはならない」姿勢を作品に追い求めたと指摘。『天の本国』(『跳躍台』所収、文藝春秋社)では、日中戦争で人を殺し悩む人物が登場、42年に刊行された「公共要理」には戦争で他者を殺めても罪に問われないとあるが、「天が自分の本国なので罪に苦しむ」主人公を描いたと述べた。遺作『弱い神』(講談社)では、何があっても人を殺してはならないことを貫く人物を小川はようやく描けたと強調した。

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