「国連UNHCR難民映画祭2017」 想像力の枯渇と妄想の膨張防ぐ 2017年12月25日

 2016年は、紛争や迫害などにより強制移動を強いられた人々の数が6560万人にのぼり、過去最高を記録した。この数字は今年UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が発表した年間統計報告書によるもので、つまり世界では今日現在もおよそ100人に1人が意図せず流浪の暮らしを強いられていることになる。

 こうした世界情勢やUNHCRの活動を、さまざまな地域の映画作品を通して伝える「国連UNHCR難民映画祭」がこの秋、全国6都市(東京、札幌、名古屋、大阪、福岡、広島)で開催された。今年で12回目となる本映画祭、今回の上映作は全13作品を数え、会場では関連のトークショーやパネル展示なども併催された。

 難民問題への対策機関として1950年に設立されたUNHCRの役割は、年々拡大する傾向にある。また国家/国境を基盤とする従来の国際秩序によっては対応不能の諸問題が噴出する21世紀の今日、難民問題もまたその姿を常に変容させ続けている。

 今年の難民映画祭では、こうした情勢の複雑化を反映し上映作も多様化した。中東やアフリカの難民キャンプを舞台とするもの(計4作)から、第三国での定住を試みる難民たちを扱うもの(計5作)、故国の圧政に抗して表現活動を続ける音楽家や劇団員を追う作品(計2作)など。また、近年混迷を極めるシリア紛争を描く作品も目立っていた(計3作)。

 ソマリア難民たちがスウェーデンの田舎町を舞台に慣れない氷上スポーツの大会を目指す『ナイス・ピープル』では、試合に惨敗して意気消沈するチームの前に香港人移民の飲食店主が現れて発破をかける。スウェーデンの地元住民と難民たちとの緊張関係は、この東洋人店主により相対化され収斂される。

 あるいは、ミュンヘン郊外の上流家庭へ迎えられるナイジェリア青年を主人公とする『はじめてのおもてなし』では、全編にコメディタッチの軽快さがあふれる一方、イスラム過激派組織ボコ・ハラムに苦しめられた主人公の内面とかつてヒトラーを生んだ南ドイツ住民の心情の屈託とが、眠れない夜更けの場面など底層部において共振する。

 残された1冊のノートを手がかりとして、中央アフリカのある村で起きた300人もの女性への集団暴行事件を浮かび上がらせる『カイエ・アフリカン~暴力の記録~』=写真=では、映し出される女性たちのとつとつとした語り口と、語られる凄絶とが生むコントラストの奥向こうに、常に大自然の荘厳と静ひつとが対置される。こうした映像の対照性により本作は、時々の政治状況や社会関係には回収され切らない人間存在の非言語的な厚みに充ちた秀作となっている。

 2010年代の新たな世界潮流として、社会の右傾化が叫ばれすでに久しい。シリア危機に伴う難民の到来に反発する形で、欧州各国において極右系政党が躍進したのは記憶に新しいところだが、昨今日本において注目されるようになったヘイトスピーチや外国人技能実習生をめぐる事件も、経済と人の移動の観点からは通底する問題群をはらんでいる。

 しかしこうした問題の逐一に対立項を見いだし、対立感情を巻き起こす向きに絡めとられず精神の均衡を保とうと試みる時、人の想像力は極めて役に立つ。かの地でいま起きる出来事を眼前のそれとして擬似体験させてくれる映画作品は、まさにそうして想像力の枯渇と妄想の膨張とを防いでくれる。遠い世界の出来事が不可視のまま各人の暮らしへ直の影響を与えるこのグローバル経済環境下にあって、UNHCR主催の本映画祭が回を重ね続けてきたことの意味、今後も重ね続けることの意義はその辺りにあるのだろう。

 日本における難民映画祭は来年以降も継続予定で、香港や韓国、タイでも定期開催されている。また国連UNHCR協会は今秋、グーグルとの協力によるウェブサイト“Searching for Syria(シリアを探して)”の日本語版(https : //searchingforsyria.org/ja/)を公開した。シリア難民危機に関する実態をわかりやすく伝えるサイトとなっている。(ライター藤本徹)

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