「マイノリティー」として生き延びるミャンマーのキリスト者 少数民族の牧師家庭に生まれた研究者が報告 2018年2月21日

 浄土宗龍岸寺(京都市下京区)を会場に不定期で開催されているイベント「冥土喫茶ぴゅあらんど」が2月3日、「ミャンマーのキリスト教社会を知っていますか?」と題して開催された。パウ・シアン・リアンさん(早稲田大学政治経済学術院博士課程在籍、比較政治学専攻)がゲストとして招かれ、ミャンマーでマイノリティーとして生きてきた自身の体験からロヒンギャ難民をめぐる現状などについて講演した。リアンさんはミャンマー北西部、インドとの国境域チン州出身。少数民族ゾミ(チン族)の牧師家庭に生まれた。アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団の教会員。2014年に来日し、深刻な社会的分断と連邦主義の関係を研究中。

「少数派」への暴力・迫害の実相 軍事政権下のミャンマー情勢を共有

 ロヒンギャ虐殺の影で、ミャンマー国内のキリスト教徒への迫害がある。特にキリスト教チン族に属する場合、軍や公官庁での要職に採用されることはまずない。教会の十字架が破壊され燃やされる、妨害目的の停電、祈りの禁止と土地からの移転強要は日常的。ヤンゴン市内の大学に通うためには市内への転居手続きが必要であったが「キリスト教チン族の転居届けは受理しない」という内部通達があった。手続きのために半年間、30回以上、窓口に通った。入学後、他州から来た学生に聞いても彼らは何の問題もなく、キリスト教チン族への差別を改めて自覚したという。

 宗教間対話や協力がないわけではない。2007年、ヤンゴンを中心に起きた「サフラン革命」では、仏教僧侶たちが軍事政権に対する厳しい抗議とデモを率いた。当時、ムスリムやクリスチャンの多くの大学生たちが期末試験直前にもかかわらず、仏教僧侶らのために寄付を集めた。そして、9月26日、ヤンゴン中心街スーレー・パヤー(パゴダ、仏塔)で、軍は抗議する人々に発砲を始めた。リアンさんもそれを目撃した。翌日、日本人ジャーナリスト長井健司氏を含む9人が、軍によって射殺された。

 1948年、英国から独立して以来、ミャンマーは終わりなき紛争と内戦に苦しんできた。2015年、政府は民族武装グループの一部を説得し、「全国規模停戦合意」(NCA)に署名したが、同意したのは21組織中、8組織のみで、民族武装組織の8割が合意しなかった。最大勢力「カチン独立軍」(KIA)と、その政治的組織「カチン独立機構」(KIO)は、1994年に単独停戦協定を締結したが、2011年に政府側がそれを反故にし、KIA基地を攻撃。内戦が再開すると数百人の市民が巻き込まれて犠牲となり、10万人以上が難民となった。

 ラカイン州でのロヒンギャに対する非人道的な武力行使は深刻。2012年5月、仏教徒の女性がムスリム男性に強姦殺害されたことを発端に、一部の人々がこの事件を利用し、ムスリムへの憎しみの引き金としたため収拾がつかなくなり、宗教間紛争と化して大量殺人へと発展した。公立校では少数民族の歴史を扱わないため、子どもたちはミャンマーの歴史の中で実際に何が起きたのかを学ぶことはできない。結果、多くの異なる部族、氏族、グループに人々を分類し、レッテルを貼ることで、少数派に対して暴力を振るえるよう、簡単に洗脳されてしまう。

 一方で変化の兆しもある。2016年にはチン族からヘンリー・ヴァン・ティオ副大統領が入閣。2017年にはフランシスコ教皇がミャンマーを初訪問し、政府高官や政治指導者らと会見した。ヤンゴン市内の10万人に及ぶカトリック信徒のためにミサが開かれ、ミャンマー史上初めて、ヤンゴン地方当局がクリスマスを祝った。

 リアンさんは語る。「平和のために、法の支配の再構築と強化、透明性の確保、社会経済状況の向上、開発の遂行が喫緊の課題です。ミャンマーはより平和的で、先進的で、民主的な国になろうと試み、もがき続けています。暗殺されたアウン・サン将軍のような指導者たちの理想をたゆまずに信じていけば、ミャンマーの人々は手を取り合い、目標に向かって進むことができるでしょう」

昨年7月、仏教徒によって破壊された「家の教会」

ミャンマーとチン族
 ミャンマーの総人口は5141万人(2010年ミャンマー国勢調査)。宗教人口の比率は、テーラーワーダ仏教87.9%、キリスト教6.2%、イスラム教4.3%、ヒンドゥ教0.5%、その他1%。チン州47万人(全人口の0.9%)のうち9割がキリスト教徒。長年、軍事政権下で迫害を受けてきた。チン州はミャンマーにおける最貧地域であり73%の人々が貧困ラインを下回る生活。国際非政府組織(INGO)、非政府組織(NGO)の開発計画でもほぼ触れられることがなく、教育、通信、交通などの社会的インフラ整備が不十分な状態のままとなっている。

冥土喫茶ぴゅあらんど
 
「市民に広く宗教一般のことについて知ってもらおう」と企画された浄土宗龍岸寺(池口龍法住職)の喫茶コーナー。2016年6月から不定期で土曜日に開催しており、今回で第9回を迎える。http://ryuganji.jp/events/categories/pureland/

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