【映画評】 『THE PROMISE/君への誓い』 世界を覆う不寛容・他者排斥への警鐘 2018年2月21日

 ローマ帝国より古く、世界で最も早くキリスト教を国教としたアルメニア人の故郷喪失。第一次世界大戦時のオスマン帝国によるこのアルメニア人大虐殺を、正面から質実に捉えた映画が今月公開された。『THE PROMISE/君への誓い』は、イスタンブールで出会った1組のアルメニア人男女を軸に、かつてトルコ東部の広範な地域に暮らしていたアルメニア人へ加えられた、犠牲者150万人余とされる虐殺の過程を映し出す。

 監督は、ルワンダ虐殺の真実にフォーカスした『ホテル・ルワンダ』が日本でもロングランとなり、注目を集めた名匠テリー・ジョージだ。アルメニア人大虐殺は現トルコ政府もいまだ事実と認めず、この否認がトルコのEU加盟における障害の一つともなっている。したがって本作においても撮影現場としてトルコ本国は使用できず、気候の似たスペインなど多くの国・地域が採用された。

 本作最大の見所は、アルメニア人が実際はどのように民族単位で虐殺されていったかを克明に描いた点だろう。例えば事実上の処刑となる砂漠への放逐を前に、モーセ山にたてこもって勝ち目のない武装抵抗を試みる村人たちの一幕など、黒澤明『七人の侍』を彷彿とさせる迫力展開で、映画全編がシリアス描写のみに沈着せずドラマとしてもメリハリの利く意欲作となっている。

 なぜいまアルメニア人大虐殺なのか。それはひとえに、21世紀初頭の今日世界を覆う不寛容・他者排斥の風潮への警鐘だと言える。国家が主導し計画的に遂行されたこの虐殺を、後のヒトラーによるナチス政権はユダヤ人排斥の根拠としまた現実に手本とした。そのナチスに追われたユダヤ人の立てたイスラエルで、大戦後今度はパレスチナ人が追い立てられる。かつて多くのアルメニア人が避難したシリア一帯の今日における惨状は言うまでもない。

 ちなみに本作で音楽を担当したガブリエル・ヤレドは、ゴダールやジャン=ジャック・ベネックスとの協働を皮切りに無数の作品履歴をもつ映画音楽の巨匠だが、近年は紛争・民族問題を主題とする映画を多く担当するようになっている。全編に哀切の響きをもたらす巧みさでは右に出る者のいない名手である彼の出身が、実はベイルートであることはあまり知られていない。

 さて、アルメニア人大虐殺を描いた傑作映画としては他に『消えた声が、その名を呼ぶ』がある。2年前の日本公開時には本紙でも大きく扱ったこの作品においては、オスマン帝国軍による砂漠での虐待やシリア経由での北中米への離散模様が描かれた。『消えた声が、その名を呼ぶ』のファティ・アキン監督はトルコ系移民のドイツ人だが、彼の最新作『女は二度決断する』(日本公開今春)は、ネオナチのテロによるクルド系トルコ人父子の死が物語の起点となる。故郷を出てドイツへ活路を求めた結果テロの犠牲となる父子の姿は、ちょうど100年前に首都イスタンブールへ活路を求め、そこで暴力に絡めとられる本作主人公の姿へぴたりと重なる。民族の違いは重要でなく、その違いをダシに排斥の論理を正当化する身振りこそ問題なのだという、考えるまでもなく自明の事実を、しかし今日の世界情勢はいまだ受け付けないかのようだ。

 終盤でアルメニア人の主人公は言う。「生き延びることが一番の復讐」だと。今この瞬間にも怨恨の連鎖が爆音と化し街を破壊し続ける今日の世界にあって、このメッセージをどう受けとるか。それは観客自身に問われている。(ライター藤本徹)

 新宿バルト9他にて全国公開中。配給:ショウゲート

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