映画『father』 戦争に翻弄され家族を失った神父と故郷を失った「子ども」〝巡礼〟の記録 2018年3月21日

 「わたしのことを『神父様』と呼ぶと、ビール1本おごることになっているんです」

 カトリック吉祥寺教会で行われた試写会で、そんな冗談を交えながらあいさつした本作の主役・後藤文雄さんは、〝ゴッちゃん〟の愛称で親しまれる89歳の現役神父。「自分の経験から戦争は絶対してはいけないとの思いがあったが、わたしの育てた子どもたちもそれぞれの苦しみの中で戦争に対して深い嫌悪感を抱いていたことに気づかされた」と撮影を振り返った。

 1981年から14人のカンボジア難民の子どもを里子として育て、長きにわたりカンボジア支援を続けてきた。現地に建てた小学校の数は、96年からの20年間で19校にも上る。

 映画『father――カンボジアへ幸せを届けたゴッちゃん神父の物語』は、15歳で家族を失った神父と、その子どもたちによる〝巡礼〟の記録である。

〝人の幸せのため動くと自分も幸せに〞
規格外の「大物神父」その寛容さが求められる時代

 新潟県長岡市。浄土真宗の寺の息子として生まれた後藤文雄さんは、「お国のために命を捨てるのは名誉である」とする教えを従順に受け止める、絵に描いたような皇国少年だった。45年8月の空襲で長岡市中心部の8割が焦土と化す中、妹と2人の弟が行方不明となり、川面で泥に浸かる母の亡き骸とも対面する。それが、以後70年にわたる〝巡礼〟の旅の始まりとなった。

 逃れられない戦禍、最愛の母との最悪の別れ、家族との軋轢・葛藤、思春期の初恋、神父への志、祖国の内乱や殺戮から日本に逃れてきたカンボジア難民の子どもたちとの出会い、その関わりから始まった学校作り――その人生は、見えない何かに導かれるかのごとく紡がれていく。

 カメラは、その集成となるカンボジアへの旅と故郷長岡への旅を追う。足かけ2年にわたる記録をもとに再現映像も交えながら、1人の神父とその子どもたちの証言から、「平和とは」「家族とは」「赦しとは」という根源的なテーマを問いかけたドキュメンタリー映画が完成した。

 本作のもう1人の「主役」は、1982年、15歳で後藤さんの里子になったメアス・ブン・ラー=真右。ポルポト政権下で連行された両親の帰りを今も待ち続けている。日本の定時制高校を卒業後、写真の専門学校に入学、慣れない環境の中で次第に思い詰める日々が続き、そこで初めて心の奥底に秘めていた過去を後藤さんに告白する。そして、「犠牲になった人たちが生きていたらしたであろう良きことをしていこう」と誓い合う。94年、カンボジアでの家族探しの旅の中で出会った寺の僧侶から、学校づくりを相談されたことをきっかけに、以来、後藤さんや支援者と共に学校建設に取り組んできた。

 「自分の幸せだけを求めているとどうしても人は不幸に感じてしまうが、不思議なことに人の幸せのために動くと、結果的には自分が幸せになる。それもこの20年以上にわたって活動を続けてきた理由の一つかもしれない」と後藤さん。

 製作ボランティア代表として「監督」の務めを担った渡辺考さんは、「それまでカトリックの神父は厳かで近寄りがたい存在だったが、ゴッちゃんは真逆の存在だった」「今世界を覆い尽くしている不寛容な息苦しさに対して、ゴッちゃんのおおらかさと寛容さは、大きな意味を持つ」と本作の意義を語る。

 カトリック東京大司教区大司教の菊地功さんも、こんな推薦コメントを寄せた。「人生の中で、後藤神父さんのような『スケールの大きい人物』に出会う機会は滅多にありません。殻に閉じこもって安定しようとする内向きな今の時代に、『外に目を向けて、チャレンジしろ』と、ご自分の人生全体をもってわたしたちを鼓舞し続けている。本当の『大物神父』に、この映画でぜひ出会ってください」

 4月7日~4月20日、新宿武蔵野館で2週間限定モーニングショーほか全国順次公開(配給:新日本映画社/公式HP:father.espace-sarpu.com)。本作の収益の一部は、一般社団法人ファザーアンドチルドレンを通し、カンボジアその他諸国の子どもたちの教育支援活動に寄付される。

ごとう・ふみお 1929年新潟県生まれ。60年、カトリック司祭になる。以後、名古屋カトリック南山教会、東京カトリック吉祥寺教会などを歴任。現在、吉祥寺教会協力司祭。2003年、NPO法人「AMATAK カンボジアと共に生きる会」設立。06年、第10回米百俵賞、07年第19回毎日国際交流賞受賞。著書に『カンボジア発――ともに生きる世界』(女子パウロ会)、『よし! 学校をつくろう』(講談社)。

Ⓒ一般社団法人ファザーアンドチルドレン

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