【宗教リテラシー向上委員会】 オウム事件 死刑執行ではなく再発防止のために 川島堅二 2018年4月11日

 オウム真理教が起こした一連の事件の刑事裁判がすべて終結した。確定した死刑囚は教団の元代表松本智津夫を含めて13人。東京拘置所に収監されていた彼らの地方拘置所への移送も始まった。1カ所の拘置所の死刑執行数には限界があるための分散であるといわれる。

 この事件をきっかけに結成され、事件の再発防止に取り組む日本脱カルト協会は去る3月15日、松本智津夫を除くオウム死刑囚12人の死刑を執行しないよう求める要請書を法務大臣に提出した。犯行は教団の強力なマインドコントロール下でなされ、幻視幻聴を伴うLSDなどの薬物投与もなされていた。彼らを殺してしまうのではなく、むしろ今後の再発防止のために活用すべきというのがその趣旨だ。

 わたしは同協会の理事の1人としてこの要請書の起草に関わったが、そこでは触れられていない松本智津夫死刑囚について、ここで私見を述べておきたい。それは松本死刑囚についてもその刑の執行は十分慎重にしていただきたいということである。かつて東京拘置所の医務部技官として、刑の執行停止や待遇のいい病舎入りを狙って病気のふりをする囚人のウソや演技を見抜く仕事にあたってきた精神科医の加賀乙彦氏は、松本死刑囚について次のように述べている。

 「会ってすぐ詐病ではないと分かりました」「これは間違いなく拘禁反応によって昏迷状態に陥っている。そう診断し、弁護団が高裁に提出する意見書には『現段階では訴訟能力なし。治療すべきである』と書き添えたのです」と。

 それにもかかわらず訴訟能力ありとの鑑定書が通ってしまったのは、「早く松本被告を断罪したいと結論を急いでいる裁判官や検事に迎合」したとしか思えない、と同氏は言う(加賀乙彦『悪魔のささやき』集英社新書)。

 オウム真理教はサリン事件直前に『キリスト宣言』と題する一連の書を出している=写真。内容は原始仏典と新約聖書をつぎはぎした支離滅裂なものだが、松本死刑囚を「キリストの再来」と強く印象付ける作りになっている(偶然とはいえ、オウム事件の確定死刑囚13人が「イエスと12弟子」を連想させるというのは、わたしには悪魔のいたずらとしか思えない)。

 刑が執行されれば、今なお松本死刑囚を「最終解脱者」と仰ぐアレフ(オウムの後継団体)の信者たちによって殉教者として神格化されることは火を見るよりも明らかである。公安調査庁の報告によれば、アレフは東日本大震災以降、サリン事件を知らない若者の入信が倍増している。この傾向を後押しするような刑の執行は回避すべきである。

 加賀乙彦氏は前述の著書で「(環境が変われば)松本被告人の場合も、劇的に回復する可能性が高いと思います」と述べている。松本死刑囚に対してはまず治療を行い、自分が犯した罪にしっかりと向き合わせること、刑の執行はそれからでも遅くない。

かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。日本基督教団正教師、博士(文学)、東京と神奈川二つの教会で10年間牧会の後、恵泉女学園大学教授、学長、法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。今年4月より東北学院大学文学部教授。専門は宗教哲学、組織神学。主著『F・シュライアマハーにおける弁証法的思考の形成』。

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