『新共同訳』に次ぐ『聖書協会共同訳』 近く受注予約へ 千葉・大阪で聖書事業懇談会 2018年5月1日

 今年12月の刊行を目指す新しい翻訳聖書『聖書 聖書協会共同訳』の編纂作業が佳境を迎えている。日本聖書協会(渡部信総主事)は4月9、10日の両日、「どんな翻訳になるのですか?――新しい聖書の特徴」と題する聖書事業懇談会を開催した。新翻訳聖書に関する情報交換の場として、2014年から各地で開催されているもの。

 新共同訳聖書(1987年発行)の後継翻訳を目指す同事業は、2010年夏より翻訳(訳者はプロテスタント6割、カトリック4割)を開始。編集委員会を25回、9872語の訳語間の調整、4852セットの聖書内部の相互引用文の調整、4393箇所の訳注を経て、2月にルビ作業を終えた。パイロット版1万6千部を頒布し、一般読者からの誤字脱字などの指摘と意見(約6800)を受け、現在、初稿の校正中。今夏以降に第三稿校正までを完了し、受注予約を開始する予定。本文の確定後、スマホやパソコンでのデジタル利用も想定している。

小友氏「新翻訳は期待に十分応えるもの」

 山崎製パン企業年金基金会館(千葉県市川市)で開催された4月9日の懇談会には約100人が参加。はじめに島先克己氏(日本聖書協会翻訳部主事補)が、新翻訳事業の概要を報告。続いて小友聡氏(新翻訳事業翻訳者兼編集委員、東京神学大学教授)が、「『聖書協会共同訳』はどんな聖書?――ヨブ記などの事例の紹介」と題して講演。

 同氏は、新しい翻訳聖書が必要とされる理由として、新共同訳聖書が発行されてから30年が経ち、聖書学が変化したこと、日本語にも変化が見られ、日常で古い言葉が使われなくなってきていることの2点を挙げ、「若い人やキリスト者ではない人たちにも聖書を読んでもらうため、生きた神の言葉である聖書は今の時代に受け入れられる日本語で訳される必要がある」と述べた。

 また、新翻訳の目標は「訳文をできるだけ原典に近づけること」だとし、その特徴について「日本の教会の標準訳聖書となること」「礼拝で用いること」「美しい日本語であること」「底本はできるだけ最新の校訂本を使用すること」などを重視したと解説。

 実際に新共同訳と新翻訳聖書の訳文も比較し、一例としてヨブ記2章9節のヨブの妻の言葉「無垢」が「完全」に変わっている点を紹介。同じ節の「神を呪って」は原文では「祝福して」と正反対の言葉で表現されており、新翻訳聖書では脚注で「直訳『祝福する』」と説明している。

 最後に本紙2016年2月20日付の「新しい聖書に何を期待するか」に関するアンケート結果を紹介。トップが「原典に忠実」、次が「読みやすい」であったと述べ、「新しい聖書は、その期待に十分応えるものとなった」と結んだ。

飯氏「文脈考慮し、統一性と威厳失わない訳を」

 大阪クリスチャンセンターOCCホール(大阪市中央区)で行われた10日には、約80人が参加。冒頭、同協会理事長の大宮溥氏があいさつし、高齢化社会における新翻訳聖書の必要性を指摘した。

 島先氏の報告に続き、飯謙氏(新翻訳事業翻訳者兼編集委員、神戸女学院院長)が「聖書協会共同訳――聖書翻訳から啓かれたこと」と題して講演。聖書翻訳の歴史を概観し、1960年代以降の翻訳理論の「直訳か、意訳か」という課題について、福音書、ヨブ記、詩編などから具体例を挙げながら解説した。過去の翻訳では米国の言語学者ユージン・ナイダ(1914~2011)の提唱した「動的等価性」理論の運用、また「わかりやすい翻訳」をめぐって、訳者間の理解に差があったことを指摘。

 今回の新翻訳では、ローレンス・デ・フリス氏(アムステルダム自由大学教授)のスコポス理論(ギリシア語で目的、目標、役割の意)を採用し翻訳方針を定めた。翻訳理論の機械的運用ではなく、原文の置かれた文脈を考慮しつつ、統一性と威厳を失わない、目的に沿った翻訳を目指したという。

 例えば英訳聖書で大文字「LORD」、また新改訳聖書が太字「主」で表記するヘブライ語の神名「YHWH」は、新翻訳では「わが主」と訳出するなど工夫がなされている。研究の進展に伴い、昆虫、宝石、祭儀に関する名詞をより厳密に区別し、また「はしため」など差別的な表現を変更し、箴言などでは「父/妻」を「親/伴侶」と訳出し、人権、ジェンダーへの自覚的配慮もより鮮明とな
った。

 出エジプト記3章14節「我は有りて在る者なり(文語訳)」は、新翻訳では「私はいる、という者である」となる。歴史批評的な聖書学の研究成果だけでなく、最新の学問的成果も導入されている。飯氏は「私はまだ私を知らない」という神戸女学院の大学認可70周年を記念するキャッチフレーズを引用し、「聖書を知っていると思って閉じてしまわず、新翻訳という聖書を耕す事業を通じて、また新翻訳聖書を読むことで、読者と関係者に宝を見つけてほしい」と訴えた。

 旧約担当の翻訳者の1人、山森みか氏(テルアヴィヴ大学講師)は新翻訳事業に対し「原語の味わいをなるべく残したまま、明確で品位ある日本語にするよう心がけたので、多くの人に届いてほしい」とコメント。

 カトリック中央協議会の広報担当者は、「新しい聖書の扱いについては未決定。決定がなされるまでは現在の新共同訳を使用します」と話している。

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