【伝道宣隊キョウカイジャー+α】 ひきこもりのヨブ キョウカイレッド 2018年5月21日

 「なぜ母親は俺を流産しなかったのか」。あの苦難のしもべヨブを思わせる嘆きを大輔(仮名)は口にした。

 大輔の家族は「華麗なる一族」だ。父親は大企業のトップだ。少し前に亡くなった母親も有能な弁護士だった。大輔も有名私立中学からそのまま大学の医学部へ進んだ。一つ違いの弟も同じルートをたどった。叔父や叔母、いとこたちもパイロットや客室乗務員、ベンチャー企業の社長などだ。大輔の家は、豪邸が立ち並ぶ住宅地の中でも、ひときわ目立つ。2億円以上は確実にする大豪邸だ。暖炉のあるリビングには、彼が中学校に入学した時にスタジオで撮影した家族写真や数々の賞状が誇らしげに飾られている。

 その家に大輔は20年ひきこもっていた。大輔は親に言われるままに大学の医学部へ進んだ。しかし、挫折し中退した。うつ病も発症し、そのままひきこもり生活に入った。

 「勉強しろ、勉強しろ。仕事しろ、仕事しろ。親からはそれしか言われたことがない」。怒りをその顔にたたえながら、病院の面会室で彼はそう言った。大輔は自宅で大暴れをして精神科に入院させられたのだ。

 大輔との出会いは1年ほど前。亡くなった母親の葬儀を俺が引き受けることになったことが出会いのきっかけだ。ひきこもっていた大輔は俺のことをずいぶんと気に入ってくれていたようで、入院に際して俺が週に1回、大輔と面談することになった。面会の回数を重ねる中で、ヨブのような嘆きや親に対する不満をぶちまけてくるようになった。

 大輔は、中学校、高校と見た目をバカにされ、いじめも経験していたようだ。大輔はいつもマスクをしている。その理由を「顔が老けているから」と言った。決してそうは見えない。むしろ幼く見えるほどだ。しかし、そう言っていじめられてきたのだろう。

 「僕には友だちが1人もいない。僕と話していてもつまんないでしょ」と大輔は言う。「根拠なき自信」、つまり自己への無条件の自信が彼には著しく欠落している。それはそうだ。家では常に人と比べられ、ある水準を満たしていることが「認められる」条件とされる中で育ち、学校ではいじめの対象とされてきたのだから。大輔があらゆる人間関係を絶ち、部屋に閉じこもり、ゲームに没頭するのは、これ以上傷つきたくないと必死に自分を守る防衛手段だったのだろうと思う。

 親や医者はどうしたらひきこもり生活を脱することができるかばかりを心配している。父親は作業所に行くことや病院内の作業療法に参加するように説得している。しかし、大輔はまったく応じようとしない。先日、その理由を俺に話してくれた。「人の前で失敗するのが嫌なんだ」。誰かと一緒にやる必要はないことを伝えると、少し安心した顔をした。これほどまで傷つているのかと教えられた。

 大事なのは、大輔の気持ちが一度でもいいから親に受け止めてもらえたということを経験することだ。遠回りのようだが、そこからしか40年かけて絡みついた糸はほぐれないように思う。すべてを受け止めてくれる友なるイエスの愛を、さてこの親子の間でどう表現し、伝えたらよいか。キョウカイジャーの悩みは今日も続く。

キョウカイレッド
 赤星雄馬(あかほし・ゆうま) 常に筋トレを欠かさない体育会系アスリート牧師。その体の大きさから態度のデカい奴だと見られるのが悩みの種。大食漢。仁義に厚い。武器:黄金バット/必殺技:み言葉千本ノック/弱点:食欲

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