『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』 「二世信者」の〝傷〟露わに 漫画家 いしいさやさんインタビュー 2018年5月21日

 「エホバの証人」(JW、ものみの塔)の家庭に生まれた作者の自伝エッセイ漫画が、ツイッターへの投稿をきっかけに、連載を経て昨年末『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(講談社)として書籍化された。似たような体験をした「二世信者」からの共感も呼び、話題となった。子どもの人権と信仰の継承を考える際に、避けては通れない問題が凝縮されている。わたしたちは「彼ら」と何が同じで、何が違うのか。JW元信者の牧師が、いしいさんへメールでのインタビューを試みた。

「いつかふつうになりたい」の真意は?
〝二世信者問題はどこの団体でも抱えている〞

――二世としてJWの活動に関わっていた時期はいつごろですか?
 幼稚園のころから高校生までです。

――母親のパーソナリティとJWへの入信と何か関係があると思いますか?
 母も別の宗教の二世でした。両親は仲が良いわけでも悪いわけでもありませんでした。入信のきっかけについて、関係があるかは分かりません。

――両親から「愛情」や「共感」は与えられたと感じていましたか?
 母の信じている宗教の教えに反しない面においては、時々ずれてはいたけれど与えてもらっていたと感じています。

――「もしこうだったら、自分もJWになっていたかもしれない」と思うことはありますか?
 人格を持っている神が存在するということについて実感することがなかったので、なることは難しかったように思います。

――「世」(未信者)の友人やクラスメイトから自分がどう見られているか、周囲の子たちと自分との「違い」について、いつごろから気になり出しましたか?
 小学生の時にできないことが増えたこと、そしてその理由を他の子たちが理解できないということによって気になり出しました。母から教えられる価値観と世の人との価値観が違うと感じていました。これは自分のパーソナリティの問題でもあるのですが、違う理由を人に説明するのが億劫になって人付き合いをあまりしなかったので、今でも人付き合いが下手です。

――JWにいたころに教えられたことや、それによって身についたことで、自分の益になっていると感じるものはありますか?
 特にありません。あると思っていた時期もありましたが、あるとすればそれは自分の努力によって身についたものだと思うようになりました。

――JWには、何か「問題」があると思いますか? あるとすればそれは何でしょうか?
 宗教団体と見れば、反社会的な活動を表立ってしているわけではないので社会的に問題があるとはあまり思いません。あるとすれば、今の時代だと一般的に受け入れがたい信条が多いことと、内部での問題が隠蔽されやすい教えがあることです(2人の目撃者がいないと問題を認めないなど)。二世信者問題はどこの団体でも多かれ少なかれ抱えていることかと思います。

――ご自身の知り合いや親しい方がJWになろうとしたら、どう思いますか?
 信仰は自由なので、なろうとすることについては本人が納得しているのであれば何とも思いません。

――現在のいしいさんの信仰について教えてください。
 現在、特定の宗教の信仰はしておりません。

――「宗教」によって得ることができるもの、得ることができないものはそれぞれ何だと思いますか?
 能動的に信仰したことがないので分かりません。

――結局、ご自身は何によって「傷ついた」と思いますか?
 当たり前のことですが、理不尽なことはどこにでもあって、たとえ自分がその状況に置かれたとして自分の力で逃げること以外に解決のしようがないことを、子どもの時に知ったことによってです。

――「キリスト教」や「教会」にはどんなイメージを抱いていますか?
 書籍や漫画での知識しかないので勝手にですが、建物が美しかったり、飾られているモチーフが魅力的だったりするイメージを持っています。

――本作の執筆後、母親に対する想いが変化したり、付き合い方が変わったという点はありますか?
 母は本を出版したことを知らないので、今まで通りの付き合いをしております。たまに連絡を取り合う程度です。

――巻末に「いつかふつうになりたい」とありましたが、いしいさんが思う「ふつう」とは、具体的にどのような状態ですか?
 当時は同年代の子が楽しんでいる娯楽を楽しんだり、似たような考え方をすることが「普通」だと思っていましたが、大人になっていろいろな人に接した結果、「普通」などないのだと感じました。今は、自分ができるだけフラットな気持ちでいられる状態に身を置けることが「普通」だと思っています。

――JWに限らず、信仰の継承について思うことはありますか?
 わたしの同級生の母親もエホバを信仰していましたが、未信者の父親の要望によって子どもには大人になるまで母親の信仰について伝えないとしている家庭があり、うらやましいと思ったことがありました。

――ありがとうございました。

©いしいさや/講談社

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