【東アジアのリアル】 台湾基督長老教会海埔教会突撃事件 高井ヘラー由紀 2018年5月21日

 去る3月18日、台湾南部の高雄市湖内区にある海山宮(七王神を祭る民間信仰の寺廟)の一団が神輿を担いで街を行進していた際、通りがかった海埔長老教会旧礼拝堂の扉と窓を破壊するという衝撃的な事件が起きた。一団が木の板で封鎖されていた扉を神輿で破って中に押し入るのを目撃したキリスト教徒は、礼拝堂内で一団が爆竹を鳴らし、香を焚く様子を一部始終カメラで撮影、その動画がテレビのニュースでも流され、多宗教が共存する台湾における未曾有の「宗教戦争」か? と一瞬緊張が走ったのである。

 現在では台南市の郊外とも位置づけられる海埔地区は、かつては貧しい農村であった。「猿のたたり」に苦しめられていた村民たちが、たたりから逃れたい一心で全村を挙げてイエスを信じたのが百余年前のことで、時代が経た今でも地区の7、8割がキリスト教徒といわれ、教会は地域に根付いている。

 そんな中で起こったあまりにも想定外の出来事に、教会関係者は衝撃を受けた。神輿を担いでいた1人は「(旧礼拝堂内に)不浄なものがあるから浄化せよ」との神のお告げを聞いたため(爆竹や香で悪霊を追い出した)、と説明していた。

 また、この様子はネット中継されていたという。民間信仰が盛んな台湾では人々が神輿を担いで街を巡る光景をよく見かける。この事件にかこつけて、教会には「悪霊」がいるとして同様の事件が他の地域に飛び火しないとも限らないと、長老教会関係者が懸念したのも無理はない。

 刑事事件として処理する手段もあったであろうが、海山宮は3月27日、海埔教会に対して正式に謝罪を表明、教会側も謝罪を受け入れ、4月8日には海埔長老教会において行政関係者および海山宮関係者を招いての、「『愛・反省』和解感謝礼拝」が挙行された。

被害を受けた海埔長老教会の旧礼拝堂(国立台南生活美学館ホームページより)

 礼拝の中で教会関係者は、旧礼拝堂を10年間放置して有効利用してこなかったことへの反省を表明すると共に、海山宮に対し、社会の公益のために共に尽力し、異なる宗教が共存できることを示す模範として地域を改善する勢力になろうと呼びかけた。また、海山宮から教会に対して支払われた損害賠償金はすべて、地域の心身障害者施設に寄付されることとなった。このようにして、宗教間の衝突かと一時は危ぶまれたこの事件は、関係者の尽力により非常に良い形での解決を見たのである。

 それにしても、神輿を担いでいた一団が礼拝堂を破壊した本当の理由が何だったのかは、結局のところよく分からない。彼らは寺廟直属の人々ではない。お告げによって悪霊を浄化するといっても、一般の民家や店舗に押し入ったりはしないだろう。あえて教会に押し入ったのはヤクザ(「黒社会」)の仕業であるとか、台湾独立派と見られる長老教会に対する嫌がらせであるとか、いくつかの憶測はあるが、その辺りはあまり突っ込まない方がいいのだろう。

高井ヘラー由紀
 たかい・ヘラー・ゆき 1969年ニューヨーク生まれ。中学卒業までを神奈川県および英国で過ごす。国際基督教大学卒業、同大学博士後期課程修了。ハーバード神学大学院ポストドクトラルフェロー、恵泉女学園大学非常勤講師、明治学院大学キリスト教研究所客員研究員などを経て、現在同大学非常勤講師。専門は台湾キリスト教史。

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