【空想神学読本】 「アベンジャーズ」シリーズにみるアメリカの自画像の行方 Ministry 2018年5月・第37号

 アイアンマン、ハルク、マイティ・ソー、キャプテン・アメリカ……など、個性的なキャラクターで知られる「アベンジャーズ」シリーズ。時代が求めたヒーロー像と作品群の中に、アメリカという一キリスト教国の趨勢と神学的課題を見る。

 映画「アベンジャーズ」は、アメリカのヒーローたちの結集チームであり、それぞれが同国の市民性を代表しながら、アメリカ現代史をたどる物語を展開している。

 1922年生まれ、移民の子であるキャプテン・アメリカは、第二次大戦の生き残りで「人々の自由」のために戦う男だ。全体主義や政府の陰謀を前にしても、怯むことはない。彼は自身の犠牲をいとわず「自由」のために戦う。それは、アメリカが考える「古き良きキリスト教的な精神」であり、英雄としてのキリストでもある。

 2008年公開の『アイアンマン』では武器商人トニー・スタークが転向して、巨万の富と天才的技術を投じ、テロや犯罪と闘うために「アイアンマン」となる。それは現代アメリカ富裕層の「良心」の目覚めの物語である。金と地位と女にしか興味のない男が回心して、人々のために戦う英雄となるアメリカン・ドリームと人間観がアイアンマンに込められている。

 2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』では、そのアイアンマンとキャプテン・アメリカが、政府と祖国、世界、互いの過去との関係に悩みながら、それぞれの「正義と赦し」をかけて衝突し、文字どおりのCivil War(アメリカ南北戦争)を演じてみせた。

 2018年3月公開の『ブラック・パンサー』はまだ記憶に新しい。アフリカ中央部の小国ワカンダの王ティ・チャラが従兄弟エリック・キルモンガーと王位継承を争う物語だ。

 スーパーヒーロー「ブラック・パンサー」となった国王ティ・チャラは、ワカンダの超科学の悪用を恐れて、先代以来の鎖国を崩さなかった。しかし、最後には国連で、知恵と技術を全人類に提供すると演説する。それは黒人から白人へという、公民権運動以降の米国の自画像であり、世界標準「アメリカ」という自意識の現われでもある。

 事実、同作の脚本家タナハシ・コーツの父親は、マーティン・ルーサー・キング牧師の公民権運動を敬いながらも批判し、革命による黒人解放を訴えた「黒豹党」党員だった。すなわちキルモンガーとティ・チャラに、革命も辞さない黒豹党と非暴力主義のキング牧師が重なって見える。本作は、ブラック・パンサー(黒豹)がキルモンガーの暴発を止めた世界の可能性を描いているのかもしれない。原作コミック、タナハシ・コーツの邦訳『世界と僕とのあいだに』『美しき闘争』を読み、映画と比べてみるのも良いだろう。

 アベンジャーズ・シリーズは、超人たちに「現代アメリカの自画像」を仮託して象徴する神話だ。それは古き良きキリスト教的アメリカから、多元的で複数的な「正義」と「家族」の物語というフロンティアへと踏み出す実験的歴史でもある。

 最新作『アベンジャーズ・インフィニティ・ウォー』(全国公開中)で超人たちは、いよいよ宇宙の巨悪サノスに直面し、共闘することになる。ギリシア語タナトスに由来する「サノス」という名は「死」を象徴している。すなわち「死」が本作の主題だ。劇中、サノスは自らの信念に基づいて、人々を救うため「死こそ慈悲である」と全宇宙半数の命を平等かつ無差別に奪おうとする。彼を、神の名のもとに多様な人々を唯一の物語に閉じ込めようとする「宗教」に見立て、批判しているようにも見える。言い換えれば、人種差別を乗り越えた人類が立ち向かうのは「死」の問題、すなわち「神」の問題である。

 グローバル時代の神話を背負うスーパーヒーローたちは、果たしてどうなるのか。ぜひ劇場で答えを見つけてほしい。

(「キリスト新聞」関西分室研究員 波勢邦生)

【作品概要】 映画「アベンジャーズ」シリーズ

 アメリカン・コミックの「マーベル・コミック」を原作としたスーパーヒーローの実写映画化作品を、同一の世界観のクロスオーバー作品として扱う「マーベル・シネマティック・ユニバース」作品群。

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』

 六つすべてを手に入れると世界を滅ぼす無限大の力を得るインフィニティ・ストーン。その究極の力を秘めた石を狙う〝最凶〟にして最悪の敵サノスを倒すため、アイアンマン、キャプテン・アメリカ、スパイダーマンら最強ヒーローチーム「アベンジャーズ」が集結。人類の命運をかけた壮絶なバトルの幕が開ける。果たして、彼らは人類を救えるのか?

■原作  マーベル・コミック
■製作 ケヴィン・ファイギ
■製作会社 マーベル・スタジオ
■監督 アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
■出演 ロバート・ダウニーJr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、トム・ホランド、クリス・プラット、チャドウィック・ボーズマン、ジョシュ・ブローリンほか

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