被爆地訪問を要請する広島・長崎両市長に教皇から返書 具体的言及なく 2018年6月14日

 広島市と長崎市は6月5日、被爆地訪問を要請する両市長連名の親書を渡した法王(教皇)フランシスコから両市長宛ての返書が届いた、と発表した。「原爆の惨事を生き抜いた被爆者の経験は、同じような惨事を許さないようにと駆り立てる」などとする内容で、被爆地訪問について具体的な言及はなかった。

 親書は田上富久・長崎市長が5月2日にバチカン(ローマ教皇庁)で教皇の一般接見に参列した際に手渡し、「高齢化が進む被爆者を励ましていただきたい」と訴えた。返書は駐日ローマ法王庁大使館を経由して郵送され、5月30日に両市に届いた。

 返書では他に「広島と長崎は、暴力と戦争が引き起こす極度の苦しみと死を思い出させるかたわら、立ち上がり、命を守り、平和を蒔き、兄弟愛の絆を築く力が備わっていることを示し、私たちの世界に希望の光をもたらします」などとつづられていた。


【返書】全文

広島市長 松井一実殿  長崎市長 田上富久殿

バチカン 2018年5月11日

拝啓

 原爆被爆者の方々の思いのこもったお二人からの手紙、そして命、対話、出会いと平和を促すための積極的なお働きとご尽力に感謝いたします。

 広島と長崎は、暴力と戦争が引き起こす極度の苦しみと死を思い出させるかたわら、立ち上がり、命を守り、平和を蒔き、兄弟愛の絆を築く力が備わっていることを示し、私たちの世界に希望の光をもたらします。原爆の惨事を生き抜いた被爆者の皆さんは、その生きた証しであり、その経験は、同じような惨事を許さないために取り組みを続けるよう私たちを勇気づけるものです。

 皆さまのお一人お一人、そのご家族、そしてお二人が代表なさる両市の市民の方々のために、私は個人として祈りをささげることを約束します。最後に、私のためにもぜひ祈ることを忘れないでください。主が皆さまを祝福し、聖母マリアがお守りくださいますように。

 愛を込めて

敬具

フランシスコ(教皇フランシスコ署名)


【要請文】全文

ローマ法王
フランシスコ 台下

被爆地長崎・広島への訪問について(要請)

謹啓 新緑の候 法王台下におかれましてはますます御清祥のことと心からお喜び申し上げます。

 台下におかれては、兄弟愛の倫理と平和的共存の気運を世界中の人々に広め、公正で永続的な平和を築くため、祈り、働かれていることに敬意を表します。

 また、台下が原爆投下直後の長崎で撮影されたとされる「焼き場に立つ少年」の写真に「これが戦争の結末だ」という言葉を添え配布されたという報道に触れ、私たちは大いに勇気づけられました。平和を願うメッセージを世界中に届けようとされる台下の御心に、心から感謝申し上げます。

 1945年8月の原爆の投下により、広島と長崎の街は一瞬のうちに廃墟と化し、その年の終わりまでに両市合わせて約21万人の尊い命が失われました。平均年齢が81歳を超えた被爆者は、単なる被害者ではなく、今に生きる人類の一員として、「こんな思いを世界中の誰にもさせてはならない」と自らの辛い体験を語り、核兵器廃絶を訴え続けています。

 核兵器禁止条約の採択やICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞、初の米朝首脳会談開催の意向等、核兵器廃絶に向けて大きな動きがある一方で、8年ぶりに公表された米国の核態勢の見直しやロシアの年次教書演説で核軍拡の方針が示されるなど、核兵器をめぐる動きは予断を許さない状況です。

 このような状況だからこそ、是非とも台下に被爆地を訪問いただき、ここ被爆地から、核兵器廃絶に向けたメッセージを発信していただくことを切に願っております。そうしていただければ、必ずや、現下の国際情勢を乗り越え、対話による平和構築に向けた大きな力になると確信しております。そして、世界163か国・地域の7,500を超える都市が加盟する平和首長会議にとっても、勇気づけられる出来事になると思います。

 被爆者及び被爆地の市民、そして「核兵器のない世界」を望む世界の人々は、台下の広島・長崎訪問を心待ちにしております。

 末筆ながら、台下のますますの御健勝を心からお祈りいたします。

2018年5月2日

長 崎市 田上 富久
広島市長  松井 一實

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