【特別ルポ】 進化し続ける超宗派宗教イベント「向源」 ネット空間にも進出 2018年6月14日

 寺社フェス「向源」が、今年も5月の連休で催された。

 東日本大震災を機に、若手の僧侶らが宗派を超えて集い始まったこの催しも、今年で8回目を数える。毎回大きな変更が加わりつつ前進を続ける「向源」だが、今回は正覚寺を主な舞台とし、瀧泉寺(目黒不動)、五百羅漢寺、蟠龍寺などにも会場を広げて催されたほか、動画サイト「ニコニコ動画」の主催イベント「ニコニコ超会議2018」にも出張ブースを設けたことで話題となった。

 「ニコニコ超会議2018」は来場者16万人超、中継視聴者600万人超を数える大規模フェス。「向源」からは関係する60人以上の僧侶や牧師などが会場の幕張メッセへと向かい、同じく60人以上のスタッフやボランティアにより「超テクノ法要×向源」と題するブースが設営された。同ブースでは福井県・照恩寺の住職、朝倉行宣さんによる、テクノ音楽や極彩色のライティングを伴う「テクノ法要」、ネット上での活動で知られる徳島県在住の僧侶、蝉丸Pさんによる「超動画供養」のほか、「向源」の恒例企画である仏教彫刻や座禅の体験ブース、「お坊さん、牧師さんと話そう」のコーナーなどが実施された。ニコニコ動画における同ブースの中継視聴者数は、計19万人に上ったという。

 「向源」メイン会場の中目黒・正覚寺境内では、天台宗・日蓮宗・真言宗の宗派合同による「声明公演」をはじめ、若手噺家による寄席からお灸講座、夜の怪談公演や「死の体験旅行」ワークショップに至るまで、多岐にわたる企画が催された。

 「無我の創造――仏教思想から紐解くクリエーション2.0 の世界」と題する鼎談では、パターン・ランゲージやシステム理論を専門とする井庭崇さん、超宗派HP「彼岸寺」や「未来の住職塾」を主催する神谷町・光明寺僧侶の松本紹圭さん、アート・プロデュースの立場からものづくり・街づくりに取り組む林口砂里さんの3人が、各々の立場から創造行為に潜む非自我の働きを討議した。柳宗悦の美学・藝術理論や瞑想をめぐるティク・ナット・ハン、山下良道らの言及を切り口に、創作をめぐる村上春樹・宮崎駿らの思考に迫る内容もさることながら、企画そのものの成立過程に「向源」の〝今〟を感じた。元来「向源」を押し進めてきた30代から40代の若手僧侶によるのでなく、過去にボランティアとして参加してきた20代の学生によるものだという。

 「向源」発起人である品川区常行寺の副住職、友光雅臣さんは、これまで「向源」の理想や目標をしばしば情熱的に語ってきた。しかし今回そうした〝熱い〟トーンは内へと潜行し、より長い視野での継承と布石に焦点が移りつつあるかに見える。その現れの一端として、例えば刺激的な鼎談企画がより若い世代の主導により実現し、例えばこれまで会場に直接足を運ぶ者にのみ開かれていた「向源」が、ネットを通じ世界のどこからでもアクセス可能になったこと。こうしたことの連鎖こそ、この超宗派宗教イベントが総体として歩む確固たる一歩として、来年以降のさらなる広がりを生んでゆくのだろう。(ライター 藤本徹)

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