【宗教リテラシー向上委員会】 多民族国家で巻き起こる「カリー旋風」 波勢邦生 2018年6月21日

 いま英米で「カリー旋風」が巻き起こっている。5月19日(現地時間)、英国ヘンリー王子とメーガン妃の結婚式では、米国聖公会初の黒人総裁主教マイケル・カリー氏が貧困、差別、人権問題について説教する様子が全世界の注目を集めた。

 一躍、時の人となったカリー総裁主教への世間の反応も速かった。テレビ、ラジオ、各種メディアも、このビッグウェーブに乗るしかないといった様相で、カリー氏への出演依頼が殺到している。たとえば、同氏は英国のスター発掘番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出演し、著書『CRAZY CHRISTIANS : A Callto Follow Jesus(イカれクリスチャン:イエスに従うことへの招き)』も再び注目を浴びている。

 「カリー旋風」の背後には、いま米国社会を席巻するブラック・パワーがある。たとえば、黒人監督とキャスト、スタッフによる映画「ブラック・パンサー」は、米国の歴代興行記録を塗り替えた。文明と精神性、科学技術のいずれにおいても優れているのは、人類の起源たるアフリカだということを示した本作は、強い女性を描いたことでも高い評価を得た。またNYユニオン神学校は、4月末死去の「黒人神学」提唱者ジェイムズ・コーン博士が「学生たちに灯した火」を継承していくと発表した。社会底辺と周縁に追いやられ抑圧され低くされた人々の視点から福音を読みなおす「解放の神学」が、いま最新の神学的地平として隆起し、歴史の中で花開きつつあるのだ。

 ロイヤル・ウェディングで注目されたのは、カリー氏だけではなかった。聖歌隊による「スタンド・バイ・ミー」の披露は、全世界の度肝を抜いた。耳に残るベース・ラインで始まる同曲は、スティーブン・キングの小説『死体』原作の同名映画で知られている。同曲の歌詞が黒人霊歌に由来することを知っている人も多いことだろう。

 「スタンド・バイ・ミー」は、チャールズ・アルバート・ティンダリーが同名の曲で「わたしたちは決して恐れない/地が姿を変え/山々が揺らいで海の中に移るとも(詩編46編3節)」と歌うことで人種差別への抵抗を示したものだ。

 英国ではいまだメーガン妃へのヘイト発言が頻発しているが、王室も教会も彼女を全面的に受け入れた。カリー氏は、ロイヤル・ウェディングにおける説教依頼について「4月1日の冗談だと思った」と笑いながらマスコミに答えている。しかし、カリー氏の説教と「スタンド・バイ・ミー」は英国王室と教会からの国民への願いと宣言であり、米国初の黒人総裁主教からの初のバイレイシャル王族への応援歌だったと見てよい。周到に用意された結婚式に、多民族国家ユナイテッド・キングダムの知恵と意思が感じられる。

 そして、英国王室の願いに呼応するかのように5月24日、カリー氏はホワイト・ハウス前に現われた。「あなたの隣人を愛しなさい、あなたが嫌いな隣人を、あなたの隣の黒人、白人、中南米からの人々、民主党支持者、共和党支持者を」と語りながら、デモ行進に加わった。カリー氏は言う。「わたしたちは党派ではありません。左翼でも右翼でもありません。わたしたちはイエスに従う運動なのです」

 前日23日、ニューヨーク南部地区連邦地裁は、ドナルド・トランプ大統領がtwitterで他ユーザーをブロックすることを禁止する判決を出した。当該行為を米憲法修正第一条「言論の自由の侵害」と判断したからだ。いまインターネットでは、カリー氏を中心に「#ReclaimingJesus(イエスを再び主張する)」という連携機能が話題になっている。キリスト教国アメリカで、揺れる政治と宗教の狭間で、イエスが再び話題となっている。

波勢邦生(「キリスト新聞」関西分室研究員)
 はせ・くにお 
1979年、岡山県生まれ。京都大学大学院文学研究科 キリスト教学専修在籍。研究テーマ「賀川豊彦の終末論」。趣味:ネ ット、宗教観察、読書。

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