【東アジアのリアル】 香港の7月1日デモとキリスト教界 倉田明子 2018年8月11日

 今年の7月1日で香港は中国返還から21年目を迎えた。ちょうど1年前の本欄で返還20周年の香港を取り上げたが、今回は少し違った角度から、再び節目の季節を迎えた香港について書いてみたい。

 毎年香港では7月1日の返還記念日が祝日となり、政府主催の祝賀会などが催される。一方、政府に対する抗議デモもこの日の恒例行事である。7月1日にデモが行われるようになったのは2003年にさかのぼる。返還直後からの不景気やSARS流行による香港経済への大打撃、また言論や結社の自由を脅かすことが懸念されていた「国家安全条例」制定への反対などから、返還記念日のデモ開催が呼びかけられ、市民50万人が参加した(結果的に「国家安全条例」の制定は先延ばしにされた)。以後、毎年この日は香港政府、やがてその背後の中国政府への不満をも表明する場として定着した。

 香港はデモの街である。年間を通してさまざまなデモが行われ、しかもそれらは極めて平和的である。2014年の「雨傘運動」で道路が占拠された時も、暴動などは1件も起こらなかった。2016年、「香港独立」を公言するようになった若者の一部が、抗議活動の中で歩道の敷石のレンガを投げるといった行為に及んだが、こうした行動そのものが市民の広範な支持を得ることはなかった。今年の7月1日デモも平和裏に行われている。

 他方で、香港の自由をめぐる環境は年々悪化してきているように思われる。香港の立法機関である立法会の選挙で、立候補予定者への事前審査が行われるようになり、香港の「独立」や、香港の行く末を市民が「自分で決める(自決)」ことを主張する候補者の一部は立候補そのものを許されず、また当選した候補が議員就任の宣誓の際の態度を理由に議員資格をはく奪されるということも起こった。また、雨傘運動などの社会運動を率いた若者に対し政府が原告となって責任を問うた裁判で、次々と禁固刑などの実刑判決が出ている(一部は一定期間の収監後、保釈された)。

デモ参加者に寄付を呼びかける陳日君枢機卿(前列中央)

 こうした香港の現状に対してキリスト教界の反応はさまざまである。親中的なクリスチャンもいれば、民主派の側に立つクリスチャンもいる。ただ、いずれの立場であれ訴えたいことがあれば臆せず声を上げるのが香港市民である。今年の7月1日デモにおいても、政府への抗議の意志を示すキリスト教界の人々の姿が見られた。デモの直前にはカトリックとプロテスタントの六つの団体共催の祈祷会が開かれるのが恒例だが、今年は出発地点に近い銅鑼湾の街角で「持ち場を守り、我が街を防衛しよう(謹守崗位、捍衛我城)」と題して挙行された。300人を超える参加者があったという。

 また、議員資格をはく奪された元議員や社会運動のリーダーが裁判を戦うために必要な資金を募るために設立された「公義を守るための基金(守護公義基金)」も募金活動を行っていた。この基金の呼びかけ人の1人はプロテスタントの牧師・朱耀明、基金の管理者の1人はカトリック香港教区の元教区長・陳日君(ゼン・ゼキウン)枢機卿である。今回の募金活動は、政府から訴えを起こされている9人の雨傘運動の指導者の裁判費用を募るものであったが、朱や陳自身がこの9人の中に含まれている。

 今後この裁判の行方がどうなるのか、香港のキリスト教界と香港社会の関係という観点からも注目していく必要があるだろう。

倉田明子
 くらた・あきこ 1976年、埼玉生まれ。東京外国語大学総合国際学研究院准教授。東京大学教養学部教養学科卒、同大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了、博士(学術)。学生時代に北京で1年、香港で3年を過ごす。愛猫家。専門は中国近代史(太平天国史、プロテスタント史、香港・華南地域研究)。

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