【宗教リテラシー向上委員会】 日本の食教育を問い直す ナセル永野 2018年10月21日

 毎年この時期になると決まってある相談が来る。「子どもの給食」についての相談だ。

 「あなたがたに、(食べることを)禁じられるものは、死肉、血、豚肉、およびアッラー以外(の名)で供えられたものである」(2:173)とあるように、コーランでは何度も豚肉(豚製品)を避けるように言及されており、子どもであってもムスリムは基本的に豚を避ける。そのため、子ど
もが小学校に入学するタイミグで給食について学校と相談する必要があるのだ。

 ある日の給食を想像していただきたい。「カレーライス、マカロニサラダ、フルーツゼリー」この中でムスリムが食べられるメニューは何品あるだろうか?

学校給食における豚製品(野菜スープ・しおラーメンなどのスープにも豚エキスが混入している可能性が高い)

 一見すると上記のメニューに「豚肉」はないように思えるが、マカロニサラダには大半の場合、豚から作ったハムが混入されている。フルーツゼリーに使われるゼラチンも豚由来である。さらに、学校給食のカレーライスは、牛肉がコスト高のため安価なポークカレーである場合が多い。仮にチキンカレーだったとしても問題があるのだ。

 「アッラーの御名が唱えられなかったものを食べてはならない。それは実に不義な行いである」(6:121)という章句に従い、豚以外の肉でも特別な屠殺方法で処理されたものしか食べないというムスリムもいる。同じムスリムであっても人によって多様な食生活を送っているため、現実的には家庭によって対応もさまざまだ。

 そんな多様性のある要望は、当然ながら学校現場での対応に限界がある。そのため多くの場合、「弁当持参」という対応策が取られている。しかし、弁当持参というシンプルに見える解決策に落ち着くまでに長い道のりとなるケースも存在するのだ。

 もちろん、真剣に耳を傾けてくれる学校、先生もいる。だが一方で、「給食は教育の一環だから個人的なワガママを聞くわけにはいかない」「クラスの中で1人だけ弁当持参という特別扱いをすることがイジメの原因になる」と主張する学校が現実に存在するのだ。
中には「(アレルギーは命に関わるので特別扱いを認めるが)宗教は命には関わらないし、公教育の場に宗教を持ち込むのはふさわしくない」という校長もいる。

 日本の食教育は「何でも好き嫌いせずに食べなさい」を強調するあまり、「食生活の多様性」を育むことを阻害してきたように思う。果たして何割の人が食への「こだわり」を持っているのだろうか?

 世界を見渡せば豚肉を食べないムスリムだけでなく、牛肉を食べないヒンドゥー教徒、宗教に限らずベジタリアンやビーガン、フルータリアンという食生活を送る人もいる。今後、外国人が増加する日本社会において「食生活」も多様化する。ひいては「給食」もさらなる議論が必要になるだろうし、ならなくてはいけない。

 そろそろ、これまでの常識が世界基準では非常識であることを自覚しても良い時期ではないだろうか。

ナセル永野(日本人ムスリム)
 なせる・ながの 1984年、千葉県生まれ。大学・大学院とイスラム研究を行い2008年にイスラムへ入信。超宗教コミュニティラジオ「ピカステ」(http://pika.st)、宗教ワークショップグループ「WORKSHOPAID」(https://www.facebook.com/workshopaid)などの活動をとおして積極的に宗教間対話を行っている。

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