イコン画家の鞠安氏が講演 「神の世界を覗く窓」 2018年11月1日

 現役のイコン画家・鞠安日出子(ルビ:まりあひでこ)氏の作品展「イエス・キリスト聖書物語」が10月1日~13日、上智大学カトリックセンター(ホアン・アイダルセンター長、東京都千代田区)で開催された。同大神学部の卒業生である鞠安氏が、日本画とイコン画作品を寄贈したことから同センターが主催したもの。期間中の8日には会場内で「イコンに魅せられて」と題する講演会が開催され、作品を前に鞠安氏が登壇。約80人が参加した。

 講演で鞠安氏は、イコン画家に転向した経緯やイコン画の解説、イコン画を通した信仰などについて語った。今から30年ほど前、知り合いの司祭の助言がきっかけで日本画からイコン画に転向した鞠安氏は、日本画家時代も、モーセなど聖書の物語を題材にした作品を院展に出品していた。本心ではイエスを描きたかったが、写実にこだわっていたため上手く描けずに悩んだという。

 しかし、「神の似姿」を意味するギリシャ語の「エイコーン」が原語であるイコンは、肖像画のような写実性は不要で、神でも人でもあることを写し取り、にじみ出たものではならないと気付いた。

 イコン画についての解説では、絵の周りの枠を「支持体」と呼び、現世と神の世界を区別し、神の世界を閉じ込めるものだとし、「神の世界は光が満ちていて影がない。絵画の中で暗く見える部分も光が満ちていると見るのが、正しい観賞法。イコンに凝縮されている神の国を、イコンという窓から覗く時、見る人に神の国が迫り、神の似姿に触れることができる」と説明した。

 また作品に画家の署名がないことについては、「イコン画が完成に至ると、自分が支配していた絵画が、神のものになった瞬間が分かる。その時イコン画は完成する。神の世界に署名のような俗のものを入れてはいけない」と語った。

 転向した当時は、修道者以外はイコン画を描いてはいけない風潮だったが、「聖書は誰が読んでもいいものであるのと同じように、イコン画も誰が描いてもいいと思う。生きていることで、誰もが修道者なのだから」と同氏。イコン画の完成に近づくと、画中の人物が乗り移ってくる感覚になり、磔刑の場面でイエスの手に釘を描く時は、自身も手に痛みを覚えて筆を置くという。

 「イコン画を描かなければ、神へ近づけなかった」という同氏にとって、イコン画を描くことは至福であり、祈りの時となっている。本紙の取材に対し、「イコンを日本で広めるのはまだ難しい。教会でイコンが語られれば一番いいが、イコン画は東方教会のものという意識がまだ強い。ただ一般の人にとっては、信仰の有無にかかわらず、写経のようにただ描いてみることを勧めたい」と答えた。

 鞠安日出子=1940年長野県生まれ。62年東京芸術大学、98年上智大学卒業。日本美術院展入選2回、春の院展入選6回。大調和会展受賞2回、ブロードウェイ大賞展一席。92年にイコン画を開始し、97年からはイコン画に専念する。長野県上伊那郡に「羊草庵・イコンの家」を開設。東方キリスト教学会会員。

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