【伝道宣隊キョウカイジャー+α】 主のつわもの キョウカイレッド 2018年11月21日

 薄暗い病室であったが、天からの光が差し込んだのか、洗礼杯から注がれた水で濡れた髪のせいなのか写真に写る女性からは柔らかな輝きが放たれていた。元気な時の写真と比べると痩せこけ、酸素マスクを口に当てられ、弱々しくベッドに横たわっている小百合さんの姿だったが、どこか神々しくイコンのように見えた。

 「病床の母が洗礼を受けたい。牧師に会いたいと言っている」と時々礼拝に来ていた小百合さんの息子さんから声をかけられた。「キリスト教の『キ』の字もない母がなぜそんなことを言い出すのか分からない」と言う。すぐに病院へ行った。小百合さんの呼吸はとても苦しそうだったが、ご自身のことを語り出した。

 小百合さんは、戦時中大阪から東北へ疎開した。終戦後、その疎開先でミッションスクールに通うようになる。その学校では、クリスマスに全校生徒で「メサイア」を合唱したそうで、その光景は今でもありありと目に浮かぶと言う。メサイアを歌ったことや教会で賛美歌を歌ったり、宣教師の先生からオルガンを習ったりしたことが、音楽教師への道を進むきっかけになった。

 小百合さんは困難や試練に直面し、へたり込んでしまう時に「たてよ、いざたて、主のつわもの」と54年版讃美歌の380番を歌いながら自らを奮い立たせながら生きてきた。そして、兄弟や親戚などには洗礼を受けた者たちが大勢いることなどを、ひと言、ひと言、呼吸を整えながら話された。一緒にいた息子さんは初めて聞く話ばかりだそうで、「キリスト教の『キ』の字もないどころか、キリスト教だらけですね!」とたいへん驚かれていた。

 小百合さんに「イエス様を信じますか」と尋ねると力強く肯かれた。横にいた息子さんに向かって胸元で十字を切りながら、「わたしはこれでいきますからね」とはっきりと言われた。彼女の信仰告白であり、また葬儀を「キリスト教式」でするようにという指示であった。

 彼女はずっと教会に通っていたわけではない。礼拝生活を送ってきたわけではない。聖書に親しんで生きてきたのでもない。しかし、彼女には、「主のつわもの」というアイデンティティがあった。「主のつわもの」として、人生を闘い、生き抜いてきた。小百合さんは信仰をもって生きてきたのだ。

 洗礼式の日、小百合さんの目からは終始涙がこぼれ落ちていた。座右の賛美歌を共に歌った。帰るべきところに帰った。魂の故郷に帰った。キリストの平和が彼女を支配しているように見えた。それが不思議な光を放っているように写真では見えたのだろう。

 数日後、小百合さんは天に召された。教会で一緒に礼拝をささげるという願いはかなわなかった。クリスマスにメサイアを一緒に歌いたいという望みもかなわなかった。それでも、小百合さんの希望通り葬儀は教会で行われた。

 葬儀の時、ご家族がお元気だったころの小百合さんの写真を見せてくれた。演奏会の時などに華やかな衣装をまとった小百合さんはとても若々しく、魅力的で、輝いていた。しかし、それよりもあの日病室で撮られた小百合さんの方が確かに美しく見えた。

キョウカイレッド
 赤星雄馬(あかほし・ゆうま) 常に筋トレを欠かさない体育会系アスリート牧師。その体の大きさから態度のデカい奴だと見られるのが悩みの種。大食漢。仁義に厚い。武器:黄金バット/必殺技:み言葉千本ノック/弱点:食欲

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