今、教え伝えるべきことは何か 学校×教育×宣教 座談会(湘南アレセイア・菊池結希/玉川聖学院・正田満/聖学院・百武真由美) 2018年11月21日

 公立校で道徳が教科として導入され、キリスト教主義学校での対応をめぐっては議論が続く。いずれも現役の教師として現場で奮闘する3人に、それぞれの学校で直面する課題と、教会との連携の可能性について語り合ってもらった。

悩みつつ、なお現場に立つ
学校によって異なる教職員のクリスチャン率

――菊池さんは新任として働き始めたばかりですが、理想と現実のギャップはありましたか?

菊池 今は高校1年の副担任をしていますが、やっぱり想像していたものと現実は違いました。自分が想像していたキリスト教教育とか、生徒に寄り添う教育とは違う現場に自分の心がついていかないというスタートでした。今は、部活や行事に大半の時間が取られ、授業の準備をするのは、生徒が帰った後です。本当は一番そこに力を入れたいのに、自分が納得の行くまで準備ができなかったり、生徒が書いてくれたものにも満足にコメントができなかったり……。生徒が話したい、相談をしたいと言ってくれることもあるのですが、「ごめんね、会議だからちょっと待ってて」とか、その場での対応することもなかなかできない現実と葛藤している最中です。

――生徒はどうですか?

菊池 課題を抱えている子もいますが、本当に純粋でまっすぐで、ちゃんと応答してくれる生徒が多いです。それこそ、救われて受洗に導かれる生徒もいます。

――4年目の正田さんは?

正田 忙しさによる葛藤はありますね。部活とか、校務分掌と言われる学校運営上の業務、行事の準備とか。最初は担任を持っていなかったので、その間に授業を準備しておくこともできましたが、限られた時間の中で、どう最大限の準備ができるかが課題ですね。

――教員のクリスチャン率は?

正田 教員のクリスチャン率は8割と高めです。20年以上勤めていらっしゃるノンクリスチャンの先生が、「わたしは絶対洗礼は受けない」と言っているのですが、そういう先生に限ってすごくいいお祈りをしたり(笑)。受験前などは、生徒と一緒に祈って送り出したりしています。人間関係で悩んだりしている生徒もいますが、話を聞いた後に祈ることもあります。

――学生のクリスチャン率は?

正田 クラスで5人くらいがクリスチャンです。玉聖(玉川聖学院)の中学生は毎週、教会学校に行った出席カードを提出することになっています。高校でも月1回は教会の礼拝レポートを提出し、毎日礼拝もあるので、高3の卒業までに1割くらいが洗礼を受けるようです。そういう意味では、神様が働かれていることを感じます。

――毎日礼拝に出て、日曜日も教会に行かされることがキツいと言う生徒はいませんか?

正田 最初はキツいと言う子もいますが、慣れてくるみたいです。朝の礼拝は教師がやるのですが、帰る前は終礼といって生徒が自分で決めた聖書箇所を読んで、賛美歌を歌って、「感話」をするんです。

――最も経験が長い百武さんはいかがですか?

百武 わたしの場合、一応管理職なので、学校のマネジメントや運営がメインです。本当は生徒と一緒に過ごしたくて教員になったのに、管理職はそういう仕事ばかりではない。さらに、わたしのアイデンティティは牧師であって、教師でもないんです。それをどうやって学校の中でセルフマネジメントしていくかというのが自分のここ数年の課題です。牧師としてはこういう判断をしたい。でも学校としてはその判断では通用しないという時に、自分の中で折り合いをつけていかないと、周りの人たちとギクシャクしてしまう。教員になりたてのころは、生徒との距離が近く、話も聞くことが多かったんですが、最近はもっぱら大人の話ばかりですね。

――「大人の話」というと?

百武 主に教員や保護者の話です。「鬱になりました。もう続けられません」「この学年は外してください」「部活はもう無理です」とか。願いの全部は聞けないけれども、どうしたらその先生が良さを発揮しながら働けるか。ですから、生徒との時間が全然なくて会議ばかりという点では葛藤を覚えています。でもそれに悩みながらも、立ち直れるのは、日々の礼拝があるからなんです。聖学院も毎朝、全校生徒で礼拝を行います。高3の3学期は授業がないのですが、礼拝だけに来る子もいるんです。センター試験の日も時間の間に合う子は、礼拝に出てからセンター試験に行く。毎日チャプレンが司式をするのですが、礼拝が終わって、生徒を送り出す時が、わたしにとっては一番大事な瞬間です。この派遣のためにわたしがここにいるんだから、どんなにやりたいことができなくても、これだけが続けられればいいんだと。それで、毎日リセットして、どうにかここまで来たという感じです。

――教員のクリスチャン率は?

百武 教員自体は4割弱です。本校で生徒が亡くなったことがありましたが、その時は生徒から「お祈りしましょう」と言ってくれました。教員が授業中に倒れてそのまま亡くなったということもありましたが、その時も、その日の職員会議で「祈りましょう」と。それもありがたかったです。礼拝中に出席簿を書いたりする先生がいると、ガッカリしますけど(笑)。

菊池 生徒たちにとって、ある辛い出来事があった時、生徒たちの方から「礼拝をしたい」「先生、わたしたちのクラスで礼拝をしてくれませんか」と声をかけてくれました。生徒がそう言ってくれたというのは、日々の礼拝や聖書の授業から何かを感じ取ることがあったからだろうと思いました。その成長がすごく嬉しかったですね。困難なことはたくさんありますが、その実りはあって、本当は変わっていっているという現実もある。それに目を留めると救われます。今、有志の先生たちと、放課後に祈り会をしているんです。それが本当に恵みで、支えです。

百武 キリスト教っぽいものを提供することは簡単ですが、本当に聖書がこの子たちに言わんとしていることを伝えることはとても難しい。自分も下手をすると惰性から「キリスト教的なもの」に陥りかねない。教員がまともに礼拝をしなくなったら、子どもたちもそっくりそのまま真似をします。(全文は紙面で)

 きくち・ゆき 1990年愛知県生まれ。東京基督教大学卒。牧師家庭に生まれ、中高をミッションスクールで学び、中学の時にHi-ba(高校生聖書伝道協会)の働きを通して献身の思いを持つ。大学卒業後、カトリック系大学で学び、キリスト者学生会で主事、湘南アレセイア中学高等学校で聖書科の非常勤講師として働く。2018年度より同校、聖書科教師。

 しょうだ・みつる 1993年博多生まれ。国際基督教大学卒。牧師家庭に生まれ。小中は公立学校で学ぶ。中学時代荒れた環境下で悩んだ末に信仰を持ち受洗。高校は全寮制のキリスト教愛真高校で学び、教育や世界の貧困問題について関心を持つ。大学では開発学を専攻するが、教育への関心から教育の世界へ。玉川聖学院、社会科教師。

 ひゃくたけ・まゆみ 1984年東京都生まれ。東京神学大学大学院修了。ノンクリスチャンの家庭に育つも、小学校から大学までキリスト教学校に通ったことから教会へ行くようになり、中学の時に受洗。立教大学文学部キリスト教学科卒業後、埼玉のキリスト教学校で聖書科教諭として働き、退職後、東京神学大学に編入学。現在、聖学院中学校高等学校チャプレン、日本基督教団滝野川教会協力牧師。

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