『ブッダ』に魅せられた漫画家『聖☆おにいさん』の中村光さんが手塚版『旧約聖書物語』を語る 2018年12月25日

 漫画界の巨匠・手塚治虫が最晩年に手がけた遺作の一つでありながら、国内では地上波での放映が叶わず日の目を見ることのなかったアニメ『手塚治虫の旧約聖書物語In the Beginning』が、生誕90周年を機に「豪華9枚組コンプリートDVD BOX」として教文館より発売された。

 収録されているのは、天地創造からイエスの誕生に至るまでの全26話(旧約24話、新約2話、日本語・英語音声収録)。これまで世界各国で放映されたほか、絵本やVHSとして市販されてきたものが、装いも新たに復活した。64頁の公式スペシャルガイドブックには、手塚プロダクション代表取締役の松谷孝征さん、岡田晋吉さん(日本テレビ元プロデューサー)、里中満智子さん(漫画家)ら関係者へのインタビューに加え、各話のあらすじ、地図・主要人物系図、旧約聖書学者である北博さん(東北学院大学教授)による解説も収録されるなど、多角的に楽しめる工夫が満載だ。

 この記念碑的な大作の復活にあたり、自身の人気連載『聖☆おにいさん』でもたびたび手塚作品への〝愛〟を惜しみなく吐露してきた漫画家の中村光さんに、改めて話を聞いた。

手塚作品との出会い

――DVDをご覧になっての感想は?

 失礼ながら本作の存在については今回初めて知りました。『きりひと讃歌』など、キリスト教をモチーフにしている作品がたくさんあるということは知っていたのですが、聖書そのものを描いていたというのは少し驚きでした。聖書は作品化するのが難しいので、手塚先生もきっと苦労したんじゃないかと思います。バチカンの監修もある中で、エンターテインメント性を保ちつつ作品として仕上げるのはさすがだなと感心しました。手塚先生の描く動物たちってかわいいじゃないですか。それがこんなにいっぱい出てくる作品はなかなかないなと。ノアは何度も修正されていましたが、ああいう細部まですべて考察されているんですかね。

――そうですね。いわゆるハリウッド映画の衣装ではダメだとチェックが入って。

 DVDはイエスの誕生で終わっていますが、新約聖書は先生が好きそうなテーマなので、『ブッダ』のように描きたかったのではないかと思います。架空のキャラクターももっと増やして、ユダより怖い人物が出てきたり、そういう作品も見たかったなと思います。人間ドラマとして面白いですから。

――これは聖書そのものですからね。

 先生がもっと自由に作ったら、きっとモーセが海を割る理由とか、たぶんよりドラマチックに作ったかもしれませんね。『ブッダ』でさえ、第1巻はイナゴが町を食い荒らしているシーンだったので、たぶん『キリスト』を作るとしたら、聖書の時代の生活感を丹念に描いていたんじゃないかと思います。

公式スペシャルガイドブックの各話解説も読み応え十分

――手塚作品との出会いは?

 両親が好きで、家に『ブッダ』があったのでそれが最初です。後に『ブラック・ジャック』、中学生になった時にアニメーションでリメイクされた『メトロポリス』が放映されました。その中に出てくるロックというキャラクターがカッコ良すぎるなと思って、どうにかしてロックが見たくて、他の作品にも出てくるシーンを探し出して読んでいましたね。

――内容は大人向けですよね?

 たぶん、かなり背伸びして読んでいました。山奥に住んでいたので他に娯楽がなくて、テレビも映らなかったので、ある本は無理をしても読まないと摂取できないんですよね。だから父が持っていたドストエフスキーとか、もう何言っているのか全然分からないまま読んだりもしていました。海外文学を読むと、宗教の知識がないと分からないんですよね。逆にその背景が分かるとすごく面白い。

――まさに、今の若い人にとっては『聖☆おにいさん』が、そういう存在かもしれませんね。分かる人には分かる笑いとか。仏教もキリスト教も、これまで「学習漫画」はいっぱいあったわけですが、教義的には正しいけれど漫画として面白くない。

 キリストの考えって共感しづらいですからね。わたしもそうするなとは思わない。その辺りが学習漫画だと難しいのかなと思います。ただ、わたし自身は学習漫画も好きでたくさん読んでいました。

 一番好きだった聖書マンガは藤原カムイ先生の『旧約聖書―創世記―』です。空気感も装丁も美しくて。

宗教が大好きな一家

――『ブッダ』を読む前から仏教とか宗教自体には興味があったのですか?

 ありましたね。小さい時から教会に行くのが好きで。ちょうど中二病をこじらせた時に『エヴァンゲリオン』が始まって、天使とかカッコいいじゃないですか。聖書でしか味わえないスケール感というか大きさがとても好きで、そういう作品をいっぱい見ていましたね。両親はクリスチャンではありませんでしたが、宗教画や内部装飾を見によく教会に行くんですよ。

――お父様が仏画や天使の絵を描かれていると聞きました。

 わたしが生まれた時に子どもたちの人数分だけ天使を描いていたので、自然と天使の知識が身に付きました。

――お父さんこそ中二病っぽい。

 そうですね。いわゆる宗教関連のトンデモ本やオカルト雑誌『ムー』的なものが家にいっぱいあって、すごくワクワクしながら読み漁っていました。兄も25歳でスペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラに巡礼に行っていて、お土産に貝殻をもらいました。別にキリスト教徒でも何でもないんですけど(笑)。わたしも静岡から上京した折には教文館にも必ず寄っていました。

――すごい一家ですよね。クリスマスも盛大に祝うとか。

 結構ガチなモミの木があって。教会にわざわざ行ってバザーに参加したこともあるし、なんでですかね。不思議ですね。

(協力 日本基督教団東美教会/インタビュー全文は2019年2月発行の「Ministry」第40号に掲載)

販促用の直筆イラストを描き下ろす中村さん

「手塚治虫の旧約聖書物語」刊行記念漫画とアニメでよみとく聖書の世界展

日本の作家たちが漫画とアニメで表現した聖書の世界を紹介するパネル展&ブックフェア!

日時:2019年1月18日(金)~2月6日(水)
会場:ギャラリーステラ(3階キリスト教書部)
入場料:無料

◆展示期間中のDVD BOX購入者の方へ、中村光さんご協力のスペシャル特典を企画中
◆期間中、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の安彦良和氏による特別講演会も開催決定!

詳細は年内に教文館HPで発表。乞うご期待!

なかむら・ひかる 1984年、静岡県生まれ。中学生で漫画家を目指し、2001年、17歳で月刊ガンガンWINGに商業誌デビュー。2004年からはヤングガンガンで『荒川アンダーザブリッジ』を連載。『聖☆おにいさん』は2006年からモーニング増刊『モーニング・ツー』で連載開始。
 
『手塚治虫の旧約聖書物語In the Beginning』制作スタッフ
原案・構成:手塚治虫
制作:株式会社手塚プロダクション
製作・著作: 日本テレビ放送網株式会社/イタリア国営放送
音楽:服部克久
監督:出﨑 統
日本語監修:今道瑤子(聖パウロ女子修道会)

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